松田洋子『相羽奈美の犬』(太田出版)。犬まんがの傑作。
と書くと、なんとも語弊が。主人公は確かに犬ではあるのだけど。
その犬は元々、ニートの青年で、憧れの女子高生「相羽奈美(あいわなみ)」のストーカーだったのでした。
で、ストーカーしているうちに彼女についている「わるいストーカー」を見つけ、「ストーカーの風上に置けん!」と追跡した途端、交通事故にあって死にかけのところを突如現れた犬神の力により、一匹の犬として再生させられる。
人間の時にストーカーだった彼は、晴れて犬として憧れの女性のペットに。
オンオン鳴くから名前は「オン」。犬神の名は「ネン」となる。
オンには特殊能力があり、狙った人間に噛みつくと、そいつを犬に変えることができる。
人間の意識は抹消された、しかもそいつの身の丈に合った、単なる犬に。
この辺が松田洋子ブラック劇場の独断場であり、うわーこりゃろくなもんじゃねぇなという描写が絶妙。
相羽さんは薄幸の少女なので、ろくでもない人間ばっかり集まってくる。父親との関係もこじれまくっている。
彼女を監禁しようとするおばあちゃん子の教育実習生、殺人を犯しながら現実から逃げ続けるホームレス、高校時代の栄華が忘れない現在大学では「ぼっち」のイケメン部活O B、子供にタバコの火を押し付け傷を作り「おたくの犬に噛まれたから金出せ」と言いがかりをつける父母、どうにも底辺な人生のメイド、など。
オンは基本的には奈美を危機から救うために、彼らを次々と犬にしていく。
が、人間としては生き辛すぎる彼らは犬にされてようやく、救済されている部分もある(それにしてもかなりブラックなのだが)。
ラストはハッピーエンfドのようで不条理ブラックのような、ほろ苦い結末が待っている。
この人は今までは『薫の秘話』『赤い文化住宅の初子』『まほおつかいミミッチ』など、ストーリーよりセリフのキレが最大の武器だったと思うのだけど、ここまで完璧な物語を作られるともう敵なし。
コンプレックスやダークサイドを笑いに包む達人。90パーセントがダークサイドとコンプレックスで出来ている人間からすれば、非常にほっこりさせられる作風である。
そしてやっぱり絵がうまい。犬を「犬として」表情豊かに描けるってのは結構すごい。
オンとネンの「かけあい漫才」も面白いです。