結局80年代から逃れられないのである。
先日キノコホテルとアーバンギャルドのライブに出向いたところ、アンコールで両バンドセッションのスターリン『ロマンチスト』と戸川純『好き好き大好き』のカバーを聴くことができた。
なるほどもはやサブカルの『ジョニー・B・グッド』『スタンド・バイ・ミー』のような趣であり、この人たちもそこから逃れられないのだなあと感じた次第。
ただ、彼らの好みからもすっぽりと抜け落ちてしまうバンドが「アナーキー」で、同じようなことをずっと言っているような気もするけど、こちらも自分的には重要なんである。
アナーキーと名乗りつつも彼らは全然アナーキストではないし、なんといってもいつのまにやらバンドの表記が「亜無亜危異」になっていた。
アナーキーのヒストリー本『タブーの正体』(根本豪・著/シンコーミュージック)を大変楽しく読んだ。
カバーはメンバー四人のマグショット。還暦近くまで現役の不良でいると人間はこういう顔になります、という見本。特にボーカル・仲野茂の「ガンクレ」はお見事。
この本の表記だとバンド名は基本「亜無亜危異」で、メンバーはシゲル(vo)・シンイチ(g)・テラオカ(b)・コバン(d)となっている。そして2017年に死去のため欠席となったもうひとりのギタリスト・マリ。
五人は少年時代からずっと「ダチ」だったので、そこからインタビューが始まる。
特にシゲルとマリは「半端なヤンチャ生活」を続けていくが、もともと全員がバンドをやっていたので自然にアナーキー結成。
意外と彼らはパンクに触発されて楽器を持ったのではなく、もともとエアロスミスなんかのコピーをやっていたから、後にミュージシャンとして開花していく才能は持ち合わせていた(シゲルとマリ以外)。
で、パンクらしからぬことなのではあるがコンテストで賞を頂いたり、「ピラフを奢ってもらったから」なる驚愕の理由で契約先のレコード会社をあっちへふらふらフラメンコしているうちに、ビクターに決定。
このときのディレクターが曲者で、彼らに「ダビング」という手法を教えなかった。
というわけで我々が耳にできるアナーキーの代表曲『ノット・サティスファイド』はバンドが延々と6時間演奏して、ようやくOKが出たテイクなんである。
で、メッセージというよりは全編ヤンキーのイチャモンで埋め尽くされた奇跡的な名盤、ファースト『アナーキー』が発売される。無知による無邪気な皇室批判の曲がその筋から抗議されて削除され、それなりに話題になり、この時期のアナーキーは売れた。
というか、ここまでの流れがすべて「ミスリード」に導かれているように思える。
その後はロンドン・レコーディングによるメンバーのミュージシャンシップの目覚め、バンドとして深化していくことによるファン離れとセールスの低下(及びシゲルとマリの置いてきぼり感)、マリによる傷害事件のためアナーキーのバンド名が使えなくなりブルージーな「ザ・ロック・バンド」として活動、メンバーチェンジしてデジロック・バンド「ANARCHY」として再生、オリジナル「亜無亜危異」再結成、マリの死、という怒涛の歴史を迎える。
そして彼ら四人は現在、ザ・ロック・バンドではなく、デビュー時の衣装である「日本国有鉄道の作業服」をまとった亜無亜危異として活動中。
このバンドのすごいところは、刑務所行きになったメンバーがいようが、ボーカリストのやる気が全然感じられなかろうが、怒りもせずにただ「待っている」ということ。ダチだから。
シゲルは「この時はやる気もなくて」「人気者になりたいだけだし」とぶっちゃけているし、実際にライブをドタキャンもしている。
他のメンバーも「歌もまともにうたえない」「曲も作れない」と言ってはいるのだが、「フロントマンはあいつしかいない」とちゃんと認めた上で成り立っているし、そのフロントマンが「ヤクザにもボクサーにもなれないし、ロックバンドならできるかなって」という意識で続いている。
「あの三人がいなかったら音楽になんねぇってことなんだよ。やっぱり俺とマリは『上もの』なの。だけど、その音楽を売るにはマリも大事なの」(シゲル)
「勢いとハッタリだけ。けど、その感じのハリボテ感?そのポップさが俺にとっては大事で」(シンイチ)
「シゲルがすごいのは正面から向き合わず、いろいろ逃げてきたのによくここまでやってこれたなってことで(笑)~略~磨かないから原石のままですけど、それでもダイヤモンドに違いないんです。磨き方がわかんないんだよね(笑)」(テラオカ)
「一発屋は一発屋なんだろうけど、三週くらい回って、最近また一発はじめました、みたいな」(コバン)
「意外に亜無亜危異はゴージャスなバンドだと思う。あの頃に戻れるし、それを待ってくれる人もいる」(シゲル)
というわけで元祖無責任パンクの亜無亜危異=アナーキーは今が旬!実際ライブも凄いらしい。安心してチケットを取りに行こう。