リチャード・ヘルはカッコいい。
まず名前がいい。渡世名を「地獄」と名乗るセンスがいい。従えたバンドの名は「ザ・ヴォイドイズ(からっぽ・抜けがら)」。イカれてる。
ルックスがいい。髪を逆立て(オレンジジュースやらビールやらでセットしたという説あり)、シャツを切り裂いたパンクファッションのオリジネーター。それを見て「これは使える」と、某・イギリス人山師が自分の子飼いのバンドに真似させたら大受け(多分整髪料は、使わせている)。
ジャンキーである。ロック界ではそれがクールな態度らしい。当然、クリーンな文学青年トム・ヴァーライン(テレヴィジョン)とのバンドは続かない。
ベーシストだが上手くはない。「俺のベースはヘタだ。それこそが俺のメッセージだ」と言い放つ態度はパンクである。
で、彼の代表作でありパンクロック名盤中の名盤とされる『ブランク・ジェネレーション』を聴いてみる。
ほとんどの人が「ん?んん?」と首を傾げると思う。あんまりカッコよくないからです。
妙にカン高いヘルのボーカル、いわゆるパンクには程遠い、緩いんだかひしゃげてるんだかか分からない演奏。ヤクザのようなハゲオヤジが放つ一発芸のようなギターが、なんとか全体を引き締めている。
タイトル曲に関しては「これは演歌」と言い切った人もいて、確かにそんな気がしなくもない。
いわゆるパンクロックというお手本抜きの、自然発生パンク。イギリスのパンクバンドはなんだかんだで突破口をあたえてくれたが、ヴォイドイズの音楽は袋小路。
真面目にコピーしようとしても、まずそれが間違ってるので、フォロワーが成立しない。一世一代のパンクロック。ファッションとイメージのみ、影響を与えまくったのであった。
ブックオフでリチャード・ヘル「アンソロジー」を950円で発見したので購入。
レアな初期シングル盤から90年代の「ディム・スターズ」まで収録されているが、一貫しただらしなさが光る。
(正直、ディム・スターズはいらないかなと思う。単なるアングラバンドのデモみたい)
ラストはテレヴィジョン・バージョンの「ブランク・ジェネレーション」で締められており、これはマニア的にはお宝アイテム。
なんだかんだでリチャード・ヘル&ヴォイドイズ時代が突出している。
テレヴィジョンのような構築美もなく(しかし、彼らも至って普通のバンド編成なのに、なんであんな音楽が出てくるのだろう?)、ハートブレイカーズのような高揚感もなく、ラモーンズのようなコミックさもなく、パティ・スミスのような気高い精神が宿っていたとも思えない。まるでそこだけ置き去りにされたような「個」である。
彼らが誰よりも勝っているのはハードコアがスポーティーに見えるほどの「やさぐれ感」であり、それをいい大人がグズグズと表現しているという一点のみ。それだけで十分パンクだと思う。
少年の絶望は暴れれば発散できるが、大人の絶望はそんな小手先では解消できない分だけ、タチが悪い。
ニューヨークのロックはインテリくさいとよく言われるが、要するにそういう事情なんだと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=Wyqmt8G5BiI