「それ、知ってるよ」という概念があると思うのである。
後に続くのが「知ってるよ・・・・・」のテンテンテンであったり、「知ってるよ(笑)」の軽い自虐だったりするのだが、つまり「あんたも好きねー」という、ちょっとした後ろ暗さを伴うもの。
ただ、これは共犯者的な感覚であり、分かり合える者はドルーグ(仲間)だと思ってよろしい。
書籍や音楽はわりと吟味してから手に取る媒体という気がするのだけど、映画に関しては一番「事故物件」にぶつかる率が高いと思う。もちろん「そんなものは手に取りません」というオーガニックなベジタリアンみたいな方もいるだろうが、基本的に体に悪いもんのほうが旨いんである。
「あれ面白いよね!」で済む作品はわりと一、二回しか観ないことが多いが、「ああ・・・・これな・・・・(苦笑)」系のほうが後をひくというか、再見率が高いような気がする。ダメなやつ、ひどいやつがカルトムービー化するのも、きっとそんな理由によるものなのだろう。
「それ、知ってるよ」の代表格のひとつが『バスケットケース』(82)ではないかと思う。
シャム双生児の兄弟が主人公。弟のドゥエインはイケメンなのだが、彼のわき腹にくっついて生まれた兄のベリアルは人間というよりは醜悪な肉塊。普段はバスケットケースの中に潜んでいる。
フリークスの悲しみを描いた名作カルトホラー、とよく言われがちなのだけど、自分の見解では「トンデモな兄貴を持ってしまった弟の悲劇」である。
ベリアルのデザインがそもそも、くちゃっと身体の尺が短くて、牙が生えていて爪が尖っていて目が赤く光って雄叫びをあげるという、幼稚園児の落書きみたいなもの(先生に見つかると怒られる系のやつ)。
最初こそ兄弟が団結して、自分たちを無理矢理分離手術で切り離した医者を狙って殺すためにがんばるのだが、弟に初めての彼女が出来そうになると、キモくてウザくてマジ卍な兄貴につきあうのが嫌になってくる。テレパシーで会話できるところがまたウザい。
兄は弟につれなくされると怒りまくり、部屋をメチャクチャにして暴れるのだが、ここはコマ撮り撮影なのでちょこまかした動きのベリアルが何回か観ているうちに「かわいいなあ」などと思ったりする。あと、ごはんをムシャムシャ食べるところがかわいい。
ベリアルは黒目勝ちで見ようによればキュートでもあり、超おこりんぼだったりもするから、一見愛らしいけど実は凶暴なアライグマと共通するものがある。というわけで「ベリアル=ラスカル説」が成り立つ。誰もそんなことを言った人はいませんが。
ちょいゆるキャラっぽい気がしなくもないので、どっかのメーカーでソフトにアレンジして、キーホルダーとかバッジとかスマホの待ち受けとかを作ってみたらヤングなガールに「キモかわ~!」なんて感じで受けるのではないか。「これが今女子高生の間で大流行のベーちゃんです!」。
実はこの作品には続編があり『バスケットケース2』『90)、『3』(91)がそれである。
はっきり言って完全に蛇足。誰も『イレイザーヘッド2』なんて観たくないでしょう?
とはいえそのような物件が存在しているのであれば、ベリアル・ファンとしては観なければならないのは義務だ。もちろんスルーしても人生には一向に差し支えない。が、それこそが「彩り」だと信じているんだよ、ぼくは!!
前作でホテルから墜落して死んだと思われていた兄弟が生きていて、指名手配と知りつつも、とある母親と娘が引き取り、家に迎える。
その屋敷は実はフリークスの館であった。母親であるルースがあちこちからフリークスたちを貰い受け、保護していたのである。
登場するフリークたちはグロテスクだけれどもキッチュで、現実の奇形としてはありえないデザイン。
楳図かずおの「妖怪百人会」に近いと思う。さらにわかりやすく説明すると、赤塚不二夫が描くキャラっぽい(「超出っ歯くん」なんかは特に)。
感動的なのはそこにベリアルとまったく同じ姿のフリークス女子・イヴがいて、ベーちゃんイヴちゃんは恋人同士となり交合にまで至る。ジェイポップで言うところの「出会えたキセキ」ってやつだね。
チープだがちゃんとしたホラーだった前作と比べたら、目も当てられないくらいの悪ノリ。
制作費もたくさんもらえたので「いろんな造形のフリークスが出せて楽しいなあ」といったところか。
「東京コミックショー仕様」の胎児くんや、ラストの「人間裁縫」は本当にバカ。まあしかし、それが彩りである。
『3』はさらにエスカレートして、もはやドタバタコメディ。イブが妊娠してたくさんの赤ちゃんを産み、ルースがなぜフリークスを守護するのか、という謎が解ける。どうでもいいとは思いますが、それが彩りです。あっ、「ハイパー・サイボーグ・ベリアル」も登場する!
※実はこのルースおばちゃんが一番のキチガイなのであった。
三作ともフランク・ヘネンロッターが監督を手がけ、サーガとしてもまあまあちゃんとしている。つまり通して鑑賞すると「なかなか立派な変態映画だなあ」ということである。
とりあえず一作目はどこのレンタルショップにも置いてあります(続編がどうしても観たいという好事家さんには、ブルーレイが入手可能です)。