自分のもとには牝の黒猫がいる。名前はヂル。5歳。
夭折した漫画家「ねこぢる」氏へのリスペクトも込めて命名した。あの残酷かわいい世界観が好きだったのである。
いま思えば「チにテンテン」など、『大槻ケンヂ』や『田口トモロヲ』などのサブカル者独特の照れなのか、わざと表記をちょっと変えて源氏名とするところに影響を受けたのかも知れない。
母上は荒木君なる西荻窪に住んでいた者の所に通う黒猫で、これがなかなかスリムな美女であったので出向いて指名しドンペリなどを入れていたのだが、何年かたった発情期の季節に、昭和の官能劇画に出てくる「肉労」のような牡猫に「おねえちゃんいいケツしとるなあ。ちょっとやらしてくれませんか」と獣のように(獣ですが)バックから犯されてしまったと言う。荒木君は「これは妊娠するなあー」と煙草をのみながら交合の現場をぼうっと見ていたらしいのだが、したらまあやっぱり出来ちゃいました。生まれたのは黒猫の男子と女子。
よちよちと歩く黒くてなんかふわふわした物体。ほっほう、ほっほうと喜んで見ていたのだがところがぎっちょんちょん事件が起こる。母親猫がなにか気が動転したのか、男の子の尻尾を傷つけてしまったのである。こらやばい、つうことで毎日化膿止めをつけて包帯を替えなければならない。
自分は押さえつけ役、荒木君が治療役なのだがさすがに仔猫とはいえ全身の力を込めて「わきゃあ。どうしてそんなに痛いことをするのだ。いくら僕が生まれたばかりで世間知らずとはいえあまりにもひどいじゃないか。その手をすぐ離し給え。わきゃあ」と抵抗するので、二人がかりじゃないともう絶対無理ってかんじ。
それを「この巨人たちは何をしているのだろう」と思っているような風情で眺める女子(名前はまだない)。
この男子は仮に「しっぽ」と命名され、結局尻尾を切断することになるのだが、名前はそのまま「しっぽ」に落ち着いた。女性の元に引き取られ今は家猫としてハッピーなかんじに暮らしている。
店を開ける前に坊ちゃま嬢ちゃまのお世話をする家政夫として毎日通う。
二匹のちいさいものが自分の腹の上に乗ったりじゃれあったり飯をくったり寝たりする。
一挙手一投足がなんかえらいこと、マックスチョー可愛らしい。こんな美しい光景は二度と見れんかも知れぬな、とか思う。実家が「嫌猫一家」だったので猫は好きなのにあまり触れたことがなかったのである。
結局、マーキングの問題などを考え女子を引き取る。これが「ぢる」であります。
今はだいぶお姉さんになったので、片仮名表記に変更。
さてヂルさんなのだが、抱っこが嫌いである。
実は子供のころから抱くと後ろ足をばたばたと蹴り上げ「いやいやいや」をしていたのだが、「おお可愛い。ほほほほほ」とほのぼのしていたらそのまま大きくなりました。いまだにこれをやる。
「双方損をするわけでなし、たまには僕の膝の上に乗ってみませんか?悪い話ではないと思うのですが」とお伺いを立てるのだが、実際コトに及ぶと「ああいや。なぜそのような不安定で面積も少ない場所にわたしを乗せようとするのかその根拠がわからないっ。棚の上や椅子の方がよほど平ぺったく安定しているじゃないの。こう見えても保守本流なのですよっ」と怒られる。
と、ここまで書いたところで知り合いが来たので一旦筆を(キーボードを)置きます。つづく