というわけで悪女特集のラスト、『しとやかな獣』(監督・川島雄三)を観に行って来た。
ずっと団地の一室で会話のみで展開される作品なのですが、これが面白い。
勤務している芸能プロから横領をはたらく息子。
それを知っていながら口裏を合わせてプロダクションの社長をなだめすかす両親。なぜならおうちにお金が入るから。
だが、その金を女に貢いだと知ると激怒するおとーさん。そこんとこは怒るわけだ。
しかもこの親たちはお手当てを目当てに、自分の娘を流行作家にあてがっている。公認援助交際というわけ。
この親子関係が痛快なのは、「ゼニを得る」という点においては手段を選ばず、それに対してまーったく何の罪悪感も持っていないということ。
お互い腹を割って話が出来る正直で素晴らしい家族である。
(うちなんか19歳の時に死んだ爺さんとまともに会話した累計時間は、どう考えても1時間に満たないぞ。ずっと同居していたにも関わらず)
息子をたぶらかした金で旅館の女将におさまった経理の女・若尾文子が艶っぽい。
なんと言っても一番の怪演は父親役の伊藤雄之介でしょう。悪党のくせに罪悪感がまるで透けて見えないので、妙に爽やかであり、愛らしくもある。
そんな旦那を常にフォローする、というか「操る」参謀のような奥さん。
淡々とした映画だが、テレビから流れる音楽に合わせてバカ息子とエンコー娘がゴーゴーを踊るシーン(バックには真っ赤な夕陽!)は、はっとするほど狂騒的。
「しとやかなけだもの」と語感も素敵なこの作品、正月映画として公開され大コケしたらしい。
今回はキズが入りまくりのフィルム上映で観られてよかったよかった。
『家族ゲーム』に近い雰囲気もかなり濃厚なので、かの作品のファンにもおすすめ。
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