『ブルース・ブラザース』(80)はいまだに世界中で人気だが、『狼男アメリカン』(81)はホラーファンには人気でも、一般的にはだいぶ忘れられた存在になっている。どちらもジョン・ランディス監督作品。
『狼男アメリカン』は変身シーンが有名だし今観てもすごい。なのでそこばかり語られがちなのだけれども、実は小粋なブラックコメディなんである。
サントラも、のんびりしたカントリーが多く使用されている。
イギリスを旅していたバックパッカーのアメリカ人二人が狼に襲われる。一人は病院に運ばれなんとか生き延びるが、もう一人は死んでしまう。が、彼は亡霊となって現れ「お前は狼に変身して、ぜってー人を襲うから、その前に自殺しろ」と忠告する。とはいえ担当ナースと恋愛関係になり、結構なリア充である主人公が死ねるわけがないので、忠告どおり狼になって殺人を犯してしまう。
そして亡霊は「だから言ったじゃんか」と姿を現すのだが、亡霊のくせに出てくるたび体が腐っていく。最後は原型をとどめておらず、つまり、ふざけているのである。
一番ふざけているのはポルノ映画館で自分が殺害してしまった人々とご対面する場面で、「ごめんなさい・・・」とシュンとするシーンには爆笑。っと、コメディなので細かいネタバレは厳禁。
「狼に変身してしまう男の悲喜劇」といった体で、あまり類を見ないタイプの作品。『ハウリング』はツタヤレンタルで復刻したのに『アメリカン』が手付かずになっているのはとても残念。こっちのほうが面白いのに。
少し前に『ブルース・ブラザース』を始めてまともに鑑賞した。
ダン・エイクロイドとジョン・ベルーシのコンビは歌もダンスも達者だし、登場する黒人ミュージシャンも超豪華。総額どれくらいのギャラを払ったのだろうか。
カークラッシュあり、ギャグあり、良質の音楽ありで非の打ち所がない。
ところがですねえ、自分的には全然、乗れなかった。
世界中から愛され続けている映画だし、ひねくれ者がちょっとくらい横槍を入れてもよろしかろうってことで真面目に書きますが、なんだろうな、「記号が回ってるとしか思えなかった」のである。
『狼男アメリカン』はジャンルこそホラーだが(グロテスクな変身シーンなんか絶対見られない、という方々もいらっしゃるだろう)おかしくも物悲しい、つまり有機的ということだ。
狼わんこ(実際のところそんな感じのデザイン)がロンドンの街なかで乱暴狼藉をおこしたのち狙撃され、死ぬときは人間に戻って全裸で横たわっているシーンには、哀愁があった。
ブラザースの二人はハット+黒スーツ+サングラスであえて記号化されており、アイコンとしては非常にわかりやすい。
そんな彼らがまきおこすてんやわんやの大騒ぎ(笑い)。その騒ぎの原因として「つぶされそうな自分たちを育ててくれた孤児院を救うため」という立派な理由がある。
というわけで「バカ映画査定としてはすでにマイナス」なのである。バカは過激に無意味にバカでなくてはならない!(というか、別にバカ映画じゃないのかな?)
ブラザースの命を狙って奔走するのがネオナチとカントリー・バンド。
「黒人音楽を愛する人間を白人至上主義の人間が狙う」という構図は皮肉が効いていていいのだけど、ネオナチの「自分たちの演説をコケにされたから」はまだわかるが、カントリーバンドは「自分たちがライブハウスに到着する時間を大幅に遅刻して、ブラザースにステージを取られてしまったから」という理由で、命のやりとりをするにはなんだかなあ、の甘あまさ。
しかも彼らをさほど「ワル」として描いていないから、記号が記号を追いかけているようにしか見えない。
ほどよく毒抜きした、職人的な百点満点の作品。つまりそれが苦手なのだなあ。嫌い、というより、苦手なんである。
続々登場するビッグ・ネームたちの演奏シーンは素晴らしいし、そもそもソウル・ミュージックにケチをつけるバカはいない。が、ソウルを至上のものとし、他ジャンルをバカにする手合いがたまにいるがそいつはいかがなものか?と思うけれども、それは自分が低位置にいるものに強い偏愛を抱いているからなのでしょうかね。