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すうさい堂の頭脳偵察~ふざけてません。

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「オレ」と「あたし」の間に




手塚作品に『きりひと賛歌』というのがあって、これは顔が犬のように変形してしまう奇病(モンモウ病)にかかってしまった青年医師の話。
敵対するキャラとして、医師の勤務していた病院の院長がおり、彼は自分の研究者としての名誉のためこの病気を「伝染病」と発表するが、原因は水や地層による「中毒」であり、それでもプライドのため自説を曲げず、やがては同じ病気にかかって死んでしまうのだが、この作品をふと思い出したのが『ブレンダと呼ばれた少年(ジョン・コラピント著)』なるノンフィクション。
双子の兄弟。兄は尿の排出がうまくいかず、それならばということで生後八ヶ月でいわゆる「包茎手術」を受けるのだが、不幸なことにレーザーの失敗で性器を焼かれてしまい、ナニを喪失してしまうのである。
さあどうしたもんだ。途方にくれる両親の前にテレビで「性別は後天的に決められる」との自説をぶつ、「性科学の権威」と呼ばれる男が映し出される。
両親はこの博士のもとを訪ね、アドバイスを乞う。
彼は「睾丸を摘出しとりあえず女性器を作り、女の子として育てなさい」と言う。そうすればすべてがうまくいく、と。

DNAは男なのに、周りの「努力」で髪を伸ばしスカートを履かせ、「女の子としてのアイデンティティを埋め込みなさい」というのである。名前も「ブルース」から「ブレンダ」に改名されて。
さて、そんな目論見がうまくいくはずもなく、ブレンダは常に違和感を感じることになる。
人形よりプラモデルが好きだ。男の子とのケンカだって一歩も引かない。でもそれはお前のすることではないと言う。弟は普通に遊んでいるのに。
やがてこの軋轢に耐え切れずブレンダの精神は不安定になり、弟は非行に走り、母親はノイローゼになり、父親はすべてをないことにしてテレビの前でビールを飲む。
それでもこの「実験」を提唱した博士は、「すべてが順調である。私の説は正しい」といった旨の論文を発表し続ける。

性転換手術を断固として拒み、無理矢理女性ホルモンを打たれ続けていたブレンダだが、やがて彼の意思を
尊重され、15歳で「ディヴィッド」として男性に戻ることが許された。
なんだけれども根本的な問題ってのは残っているわけで、彼の悩みは実に想像を絶するものであり、この災厄の原因を作った執刀医のもとにピストルを持って訪れ、撃ち殺そうとまでした。
やがて理解者である女性が現れ(子持ち)、人工ペニスを作り、結婚をして、ディヴィッドは連れ子の父親となったのであった。めでたしめでたし。

で終われば「感動のノンフィクション」なのだが、この話にはとんでもないオチがある。
この本が出版され、一度絶版になり、再販された訳者あとがきによれば、双子の兄弟はすでにこの世にはいない。
弟が精神病を患い自殺したのち、離婚(あー・・・・)や投資の失敗などが重なり、兄も38歳で自ら命を絶つ。

この話に救済はない。
強いて言うならば「仮性だろうが真性だろうが、ついてればなんとかなるさ」という、なかばヤケクソ気味の前向きな希望である。

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