誰の話かというと、故・浅川マキさんなのだが。
浅川氏は終生、CDの音質には懐疑的であったので、CD化されたものも自らさっさと廃盤にしていたゆえ、かろうじてベスト盤が入手できるくらいだったのだが、本人もお亡くなりになったのでもうよろしかろうと、ほぼオリジナル全作品が復刻された。
(といっても限定紙ジャケ仕様なので、在庫がなくなり次第また静かに姿を消していくのだと思う)
とりあえず追悼盤二枚組ベスト『Long Good -bye』を今ごろ購入した。
二枚組というとデジパック仕様が多くなったこの頃だが、このベストはもう分厚い、どーんとしたアナログな存在感を放っている。
ほぼ全キャリアをフォロー。フォーク/ジャズ/ブルース的な70年代の曲が中心だが、80年代以降はブラコンっぽいレパートリーも歌っていて、椎名林檎あたりが歌っていたとしてもほぼ違和感はない。
「アンダーグラウンドの女王」と形容されることが多いが、黒人霊歌のカバーなんかはともかく、実は日常を切り取ったような歌詞がほとんど。そして一人称が俺・おいらの「男歌」がやけに目立つ。
意味不明なおどろおどろしさなら、椎名林檎の方が数段上である。
(この人の歌詞ってば、洗練されてるようで結構野暮ったいな、と実は思っている)
黒人的な歌唱を「クロい」と呼んだりするが、浅川マキの声は文字通り「黒い」。
ダークネス。エキセントリックな部分はあまりなく、すべてを黒く包んでいくような漆黒の声。
ファッションやジャケットなども黒で統一された、生涯、彩色を拒んだアーティスト。
『夜が明けたら』『ちっちゃな頃から』『かもめ』あたりが定番ではあるけれども、珍しくドロドロした『Blue Spirit Blues』や、怨み節の『めくら花』、ダーク・ボッサな『ふしあわせという名の猫』、アカペラからギターに入る流れが恐ろしくカッコいい『朝日のあたる家』、、「スポットライトでなく/ローソクの灯じゃない/ましてや太陽の光じゃないさ」の歌詞が泣ける『それはスポットライトではない』、ドランキンな『ジンハウス・ブルース』など、夜に聴く名曲集といった風情。
ここのところ購入したCDでは特に恭しく扱っている盤であり、基本的に家で夜に一人で聴く歌であると思います。
晩年の浅川マキは膨大なレコードや本などのコレクションをほとんど処分していたらしく、それは何となくわかるというか、すうさい堂さんも手持ちのコレクションなどはかなり少ない。
ただこのベストは、おそらく手放すことはないのではないか、と思っている。
まだまだ残暑もきついが、ぼちぼちこの人の声が似合う季節だなあなどと想いをはせつつ、もう節電もめんどくさくなったため、冷房を効かせた部屋にて候。
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