初期花輪和一はギャグである。『月ノ光』で堪能できます。
戦争に行かせまいと、好きな男(性次郎さん)を床下に監禁している女。聖水茶漬けを食べさせたりしているが性次郎の実の妹に発見されてしまい、そっちも一緒に監禁。
狂ってしまっている兄に殺される前に妹は床下から火箸を突き立て、それは見事監禁女のあぬすに命中して、彼女死んじゃいましたとさ(『戦フ女』)。
父親に犯されそうになったため、文字通り「箱入り娘」として育てられた「おじょうさま」に、醜い下男が箱の中を覗いて惚れてしまう。
「SM折檻だあ」と、罰として下男は両目を潰されてしまう。和式トイレの中に偲びこんだ下男は用便中のおじょうさまにそこから思いを遂げ(わかりますね?)、オチは「おおよしよし」「かわいいね」 オンギャー オンギャー(『箱入り娘』)。
少年の奉公人を「すぐ噛み殺しちゃう」手のないお嬢様に奉公するため、足を切断されてしまう娘。
お嬢様に背負われて、「手」として使用される(なんかそんな設定のカンフー映画が、昔ありました)。
とんでもない話だが、なんだかひたすらアホくさい。
ホモっぽい父親と使用人が無意味に「花いちもんめ」を踊るコマには、不覚にも爆笑(『寒(サミ)い』)。
エログロではあるんだけれども、妙に色っぽい目つきの美形キャラがくねくねとドイヒーな運命を受け入れていく様は、過剰なキャプションも込みで笑ってしまうんである。
一番その傾向が顕著なのは、冒頭を飾る『髑髏乳』。すべてのくねくね具合がおかしくてしょうがない、猟奇ギャグ漫画の大傑作であります。
「血ヌルヌルちがいっぱいでました。ち、ち、ち。赤いち黒いちベトベトベト」。
そんな中で、子供を題材にした作品はかなり深い。
「もう明日からは絶対しません」と泣きながら誓いながらも、巨大蟻の甘い卵を盗むことがやめられない兄妹(『神に誓う子』)。絵柄は日野日出志の影響が強い。
貧乏な「三吉」がお金持ちの「きん坊」とその母親に縁日に連れて行ってもらうのだが、母親はきん坊にわたあめやらアイスキャンディーやらを買い与えるのみで、他人であるところの三吉はいっさいシカト。
必死の形相で見世物小屋に行きたいと袖を引っ張る三吉を完全無視。シナソバも食えず。
帰れば実の母親にうざがられ、「やられるまにやってしまおう」と三吉、母親の入っている風呂に燃料としてガソリンをぶちまける。
「おゆかげんどうですかあ?」
子供がじわじわと自らの憎悪と狂気を増幅させていく様を描いた『見世物小屋』は、この作品集の白眉で、実にホラーな逸品だと思う。
鳥を瓶詰めにして窒息させながら三吉はつぶやく。
「たべたくっても
ひもじくっても
がまんするんだよ
がまんするんだよ
おまえはいいこなんだから」
※すうさい堂にて箱入り初版/青林堂版が販売中。
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