ここまで底意地の悪い表現は久々に見た気がする。映画『ハピネス』(98)である。
かなり淡々としているので初見ではよくわからないかも知れない。二回観てああなるほどと思い、三回目にはどす黒い笑いがこみ上げてくる。レンタル店によってはコメディの棚に置かれているようなのだが、うっかり鑑賞すると大変なことになります。水道水に劇薬を混入させたような作品。
基本的には家族の話。両親と三姉妹。長女は精神科医の旦那と三児の母。次女は美人の流行作家。三女は普通のOLだが作曲家になりたいというひじょーにファジーな夢を持つ。
三女はおっさんの彼氏にレストランで別れを切り出す。いい感じにリードしていると感傷に浸っていたら、突如ぶち切れた彼氏から「僕はシャンパンだが君はクソだ!」と逆襲されてへこむ。いきなり最高ですね。
長女と次女はリア充なので三女を内心バカにしている。っていうかその気持ちがもろに言葉に出ちゃったりして。でも一見姉妹は仲がいい。
父親は母親にいきなり別居してくれと言い出している。で、結局、自分の女房とさほど変わらないようなおばさんと浮気。
次女に想いをよせるマンションの隣人がいる。が、コクることもままならないので、毎晩あちこちにイタズラ電話をかけては自家発電。この役を演じるフィリップ・シーモア・ホフマンの「すぐ近所にいるド変態」という雰囲気が最高。うおー名優じゃん、と思ったら数年前にドラッグでお亡くなりになっていたんですね。
フィリップに恋する同じマンションに住む太ったおばさん。この人の正体がとんでもない。
長女は「私が一番ハピネス!」と信じているのだが、実は精神科医の旦那はガチの少年愛の人なのであった。
11才の長男に「僕はまだイッたことがないんだ」と悩みを相談されると「パパがやって見せようか?」と答えてるあたりからどうかしてるんだけど、いよいよ歯止めが利かなくなり息子の同級生をレイプしてしまう。
この事件が明るみに出たあとの親子の対話が最悪(というか最高)。
長男が泣きながら「僕のことも犯したかった?」と聞くと父親は「オナニーで我慢する」と答える。
この辺のくだりが一部から「史上最低の映画」と呼ばれる所以なのだろう。正直、私は爆笑してしまいましたが。
今日の文章は大変下品な単語ばかりで申し分けないのですが、だってしょうがない、そういう内容なんだもん。ついでに映画史上に残る名ラストシーンのことも書く。
事件のあと、家族が集まって食事会を開いている。長男がベランダから下を覗くとビキニの若いお姉さんが日光浴。長男はたまらなくなって手すりに発射。せんずりからの手すり。申し訳ない!下品で!でも削除しな~い。なぜなら『ハピネス』に当てられたから。
それをペットの犬がペロペロ。そのまま飼い主の長女のところに行ってマウス・トゥ・マウス。「おお、クッキー(はぁと)」なんつってママンは喜んでいる(書くのも憚られることではありますが、犬との間接キスで息子のザーメンを飲んでる)。すっげえ悪意。本作のテーマはここに凝縮されていると言ってもいい。
レイプ場面が直接描かれていたりするわけじゃないが、何度も書いてしまうけど、監督トッド・ソロンズの悪意が半端じゃない。
ホラーだったら「全身の皮をはがされて無理矢理臨死体験させられる」とか「いい具合にでかいガラス板がトラックから飛んできて首チョンパ」とか「インディーズ宗教にはまったおっさんが夜な夜な女性を殺しては人体パーツをつゆだくでお持ち帰り」とか、要するにモロに「嘘」な分、罪がない気がする(ここで元ネタ当てクイズ。それぞれ何の作品でしょう?)。
描かないことで、つい「あるある~」とか思ってしまうのだ。
誰もが幸せを求めるが、誰も幸せにならない。あるいは「幸せだと思ってたら実は地獄でした」。
最後に長男が「僕、イケたよ」と微笑む。結局いちばん幸せなのは、精通の快感を知った彼だったりして。
映画のエンドロールでよくある手法が、登場人物たちのその後だ。「のち、結婚し、二児の母」とか。
ところが『ハピネス』はそんなに優しくない。ザックリとおしまい。どんな状況だろうと生きてる限り、勝手に人生は続いていくということなのだろう。
他にも細かくてブラックなギャグがあちこちにある。「幸せって何だっけ?」と思うたび、観返したくなる大大傑作である。
さてまだ終わらない。なぜこの作品に深い感動を覚えたかと言うと、自分の周りにあまりにも『ハピネス』的な人々が多かったからです。
■三十路過ぎて風俗にはまり親から車を買えと貰った三百万をすべて風俗にぶっこむ。お気に入りデリヘル嬢を指名して自分はホテルで全裸で待機。そしてギターを弾き自らの面妖なオリジナル曲を披露する(インストアライブ)。で、エッチは無し。
■彼がよく指名していた風俗嬢。演技経験ゼロにもかかわらずオーディションを突破し、シネコンでも上映された某作品に女優として出演。それ一本で映画界を去るがその後、あ、これ以上は角が立つので書けない。
■もともと「裏っぽい」人ではあったが(シャブで逮捕暦あり)、某マンガの影響で安定のドカチン稼業を捨てる。のちに家も仕事もなくなり何故か「西へ行きます・・・・」と自己完結して(彼の東京ラストナイトは旧すうさい堂でした)勝手に大阪の西成まで堕ちる。現在は消息不明。
■もともと古着のバイヤーだったが、海外での買い付けの際にドラッグを覚えてダメダメな感じで帰国。のちにバツイチ子持ちの同級生といい仲になり結婚の約束までするが謎の破綻(たぶんDV)。現在は消息不明。
■もとバンドマンのアダルトビデオショップ店長。パンキッシュなつくりのAVファンジンを発行し(自分も参加)好きなようにやっているように見えたが、突如店が閉店。書き手たちの原稿を受け取ったままドロンして消息不明。
■どぎついメイクとロリータファッションがイタすぎたアラフォーのメンヘル主婦。旦那は劇団俳優だったが現在は離婚。大変申し訳ないが「いろいろ耐えかねる」ため出禁とさせて頂きました。音楽もやっているので現在もあちこちのライブ会場に出没中。
■兄、妹がいる三兄弟の次男。この兄弟間ではまったく会話というものをせず、家族が揃ってもすべて両親を通して話をするのだという。数年前お兄さんが結婚。結婚式に妹さんは欠席。
彼は硬い仕事をしているが本質はサブカル。ある日行きつけの「極左書店」を覗くと皮ジャンのおっさんがいる。と思ったら自分の直属上司だった!上司はパンタや遠藤ミチロウのファンであり意気投合。
釣りバカ日誌における「浜ちゃんとスーさん」の関係に近いものを築いているらしい。
とりあえずこの辺で。おあとがよろしいようで。
(クイズのこたえ。『マーターズ』『オーメン』『血の祝祭日』)