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すうさい堂の頭脳偵察~ふざけてません。

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ダークホースにもなれなかったよ



これは確か精神科医の受け売りなのですが、「あなたはやればできる子」とは「やらなければできない子」と同意である、ということ。つまり普通の子は「やらなくてもできる」ので、やらなくてもできる子がやる気を出せば、さらにできるようになる。というわけで両者の差は縮まらない。
これはものすごく身に覚えがあることなので、残念ながら真実である。そして「やればできる子」がなにもやらないでいると、背中も見えないくらい「普通の子」との距離が遠くなる。
さらに残酷なことを言えば「やってもできない子」も確実に存在する。うわああああああああ。
『ダークホース~リア獣エイブの恋』(2011)はそんなお話。まだまだトッド・ソロンズまつりは続いています。
しかしこの日本版タイトル。「リア充」じゃなくて「リア獣」。ソロンズにあてられたような皮肉センスだが、確かに主人公エイブは「リアルなけもの」みたい。
自分の感情にものすごく素直。父親の不動産会社で働いているがあんまりやる気もないようで、他の社員はスーツ出勤なのにこいつはTシャツにスウェット。
うるさいパパ・優秀な弟・返品に応じない店員などには即効でブチ切れ、やさしいママ・やさしい同僚の事務員おばさんには徹底的に甘える。交友関係の描写は一切ないので、「友達はゼロ」ということなのだろう。
そんな彼がパーティーで知り合ったメンヘル美人に恋をして、デブハゲブサイクの自分にふりむいてもらうためになんとかがんばるのであった。

パパはクリストファー・ウォーケンで(一目でわかるヅラをずっと着用。最高ですな)、ママはミア・ファロー。ある意味で史上最も恐ろしいホラー『ローズマリーの赤ちゃん』のヒロイン。
この二人からなぜ君が?弟はスリムなイケメンなのに。というわけで本人は自分を「ダークホース」だと思っている。仕事を覚える気はないが自惚れは強いようで「歌手になりたかったのにパパに反対された。十代のスターになる夢も絶たれた」とのたまう。
この辺のねじれ感覚は松田洋子『薫の秘話』のチビデブハゲマザコン引きこもり理屈だけはいっちょまえの主人公「橘薫(たちばな・かおる)」に通じるものがある。
実際エイブはリア充に見えなくもない。とりあえず親の会社で働いて、裕福でもあり、父親は「お前が家を買うなら援助してやる」とさえ言ってくれる。
ただ、彼はやっぱりどうしょうもなく孤独で不幸なのだ。金も仕事も親もあるけれど、当の本人はまったくもって、なんっにも、持っていない、という不幸。
長谷川和彦の『青春の殺人者』は、親の出資でスナックのマスターをやっている息子が反逆して、両親を殺し恋人と逃げるという話だが、トッド・ソロンズは絶対に、そんなドラマチックな展開を作らない(ちなみにこの親殺し息子は、若き日の右京さん・水谷豊)。
で、一応エイブと彼女はつきあうようになる。が、彼女の気持ちとしては「自分はB型肝炎だし、作家になる夢もあきらめて、リストカットもやめて(なんかもうどーでもいいから)、あなたと結婚する」という前向きな部分がまったくない交際。
この辺からエイブに厳しい現実が襲いかかる。パパは会社を首にすると言い出し、ママは弟を引き合いに出してきっつい本音をぶちまけ、(地味なはずだった)同僚のおばさんは実は波乱万丈なイケイケウーマンであった。
そしてヤケになったエイブは車を暴走させ大事故、両足を失い、彼女から移されたB型肝炎で死んでしまう。

ネタバレしてしまったが、ソロンズ映画は気付かれないようにそっと致死量の毒を盛るような作風なので、まあ多少の解説ありでもいいじゃないですか。こっちもがんばって書いとる。
死の直前、病気で全身まっ黄色になったエイブが事務のおばさんの唇を(無理っぽく)奪い、生涯最後のキスをする。ただそれが好きな彼女ではなく「安全パイのおばさん」ってとこがね。女子は見てても泣けないよね。あっはっはっ。
そして家に現れたエイブは(幽霊?)は壁紙に「パパのダークホース・エイブ」の文字を発見する。
ここはちょっといい場面のような気が、するんだけど、こいつは結局ダメ息子のまま死んじゃったのである。とにかく底意地が悪いお話だ。
意地悪はそれだけで終わらず、エンドロールで流れる曲。誰だか分かりませんが、大意はこんな歌詞。

「今日は完璧な日 人生を踏み出し変化を起こす
君は君のまま何にでもなれる 巻き返していこう
君の夢がどこかで待ってる 新しい君が始まる夜明け
あるがままの君を恐れないで」

まさに腐れJポップそのままの歌詞で、ポジティブなメロディと真っ直ぐなボーカルで歌われる。
ところがこの主人公は「何も変化できず、どうしようもない自分のまま巻き返しもならず、夢も希望も踏んづけられて、あるがままの感情で暴走したら死んじゃった」という、まさに歌詞を反転したような人生。
この手の「馬鹿ポジティブソング」が大嫌いなので、初見は「ざまあ!!」と思ったのが正直なところ。
ただ、こうした「やってもできなかった人生」は確実にある。ゴロゴロしている。
夢や悪夢を描くのが映画ではあるのだろうけど、こんなイケてないあるある作品ばかりを撮り続けるソロンズは「オンリーワンな、世界にひとつだけの毒の花」なのだと思う。




しかし、この予告編も大傑作。

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