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すうさい堂の頭脳偵察~ふざけてません。

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愚直にして大傑作・実写版おろち



「漂流教室」も「洗礼」も最高だが、人間の恐ろしさと哀しさ、諸々の情念ドラマが大爆発している点において、やはり「おろち」なのであった。
初めて読んだのが小学校高学年というのも大きいが、「おろち」は「ブラックジャック」と並んで当時の自分の教科書的な作品であった。というより、教科書が教えていることの百倍凄かった。てなわけで「トラウマ」という言葉は使いたくないわけです。
楳図かずお作品というのがあまりにもオンリーワンで、トキワ荘の流れとも違うし、初期の少女漫画テイストは完全にどっかいっちゃったし、劇画でもないし(アクションがまったく描けない)、「ガロ」みたいにアンダーグラウンドなわけでもない(超メジャー)。
描き込めば書き込むほど現実離れしていく画風や独特な記号(子供たちのソックスがみんな「プックリ」していたりとか)、おなじみ「ひいー!!」「ああっ!!」「ギャッ!!」「は は は は は は」「ワハハハハ」「ドドドド」「そら、見てごらん!!」といった独自の言語感覚。この大時代的なセンスで貫き、時代にまったく迎合しなかったってのも素晴らしい。
というわけで楳図作品は実写化が大変難しい。どうやったらこの「ズレ」をリアルの風景や人物にフィットさせるのか、ということが難題なのである(ほとんど失敗してる)。
ならば「セットやキャラを原作の方に寄せちゃえばよくね?」と、愚直だが大正解な試みが2008年の実写版「おろち」なのであった。

原作の中でも最もおそろしいエピソードが「姉妹」と「血」で、これに老いてゆく大女優の美への執着を描いた「洗礼」もミックスさせ、女どうしのドロドロした情念を観客に向かってぶちまける。
楳図作品の根幹を成すものは非常にデリケートというか、ツッコミひとつで木っ端微塵になってしまうような脆さを含んでいるのだけれど、この映画はそれを一切せず、とにかく原作のテイストに近づけていく。
(オープニングで「私はおろち」っつっても「あんた誰よ?」って話で、楳図フリークのための作品には違いないんだが)
ゴシックな洋館のセットを作り、ほとんどの物語がそこで行われるのも正解。
木村佳乃(姉)・中越典子(妹)の「ウメズライン」を持った美人女優に、主治医の嶋田久作、チンピラ映画青年の山本太郎などの、いかにもウメズ的なキャラがウメズ的小道具の中でウメズ的な会話を話す。
ただ、おろち役の谷村美月よりは、もうちょっとバタ臭いルックスの女子(しょこたんとか)の方がよかったんじゃないかと思う。
とはいえ、狂言回しに徹しつつ、瞬きもせずに涙を流し、人差し指を立てれば枯葉が舞い、原作オリジナル演歌「新宿がらす」を本当に歌うとなれば「これだよこれ!」とファンは感無量なはず。

「門前家」に生まれた女たちは29歳をきっかけにポツポツと腫瘍が出来始め、それが全身に移り二目と見られないような姿になる(原作では18歳だが、これじゃ早すぎるとの改定であろう。ちなみに映画では一瞬だけ、その悲しい姿が映る)。
女優だった母親もそうだったし(木村佳乃一人二役)、姉妹も常にそのことに怯えている。
おろちはメイドとしてこの洋館に住み込みになるのだが、その記憶を植えつける手段として、姉の額に手を当て「額にクモがはっていたのです、そら」。
これを本当にやった。降参です。
この運命を変えるには血液型が同じで身寄りのない女の子(谷村美月の二役)を引き取り、全身の血を入れ替えればよいのではないかしら?とのぶっとんだ発想をかまし(この辺は「洗礼」テイスト)、姉のために妹がそれを実行する。しかも「自分ち」で血液入れ替え決行するも、違う型の為に失敗。
なぜ確認しない?
しかし、前述の「脆さ」とはこういう部分であり、そこで笑っちゃう人はもう観なくてよろしい。
原作を知っている者は熟知している骨肉の争いが描かれ、正気を失った姉に妹が告白する真実、それも我々は知っているのだが、こうなるともう冷静ではいられない。要するに二回観て二回とも泣いちゃったんである。姉妹が、かわいそうすぎる。
極端な形だが、これはもちろん「女性が老いてゆく恐怖」のメタファーであり、それを描き切った男性作家は楳図先生だけなんじゃないかと思う。

「おろち」は他にもサスペンスな「秀才」「カギ」「眼」「ステージ」、スプラッタ・ホラーの「ふるさと」、戦争中に飢えを凌ぐため人間の肉を食うのは是か非か?という究極の問いかけ「戦闘」など名作がギッシリつまっている。
是非続編として制作してくれないかなあと思っているのが恐怖の真骨頂・「骨」。
おろちの「よけいなおせっかい」で、死んだ男が墓から蘇り、徐々に身体を腐らせながら妻に復讐していくという物語。
しかし、墓石に堂々と刻まれているのが「三郎之墓」。ペットじゃないんだからってことで、ここはちょっと笑っていいと思う。


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