ATG制作の『TATTOO〈刺青〉あり』(82・監督/高橋伴明)を久々に観た。
やはり最も印象に残っていたシーンは昔と同じで、えーっとバカみたいだけど書いちゃっていいすか?、主演の宇崎竜童が一度実家に逃げた嫁(関根恵子)を連れ戻し、食事させるシーンだ。
「栄養あんねんから」と、レバと納豆となんだかんだをバターで炒めた不気味なものを出す。くっそ不味そうである。嫁はほぼ箸をつけられない。
その後、帰宅した関根は袋のチキンラーメンを作ろうとするが、宇崎が「栄養がない!」と、もぎとってしまう。
関根はそれを奪い返し「うちはこれが食べたいんや!」と床に腹ばいになって茹でる前のチキンラーメンをぼりぼり食う。
「うちが稼いだ金や。なに食べようと勝手やろ(正論でございます)」と吐き捨てると、切れた宇崎が関根をボコボコにする、というかなりしょうもない展開。
このボタンの掛け違い。よかれと思ってやってるのに結果は最悪。主人公の人生を象徴しているように見える。
彼の名は竹田明夫。「梅川昭美」という実在の人物がモデル。
日本の犯罪史上、恐らく最も凶悪な銀行強盗である。
以前にもブックレビューでここに書いてます。お暇な方はどうぞ。
http://suicidou.blog.shinobi.jp/%E6%9C%AC/%E5%9C%B0%E7%8D%84%E3%81%AE%E3%82%AB%E3%83%83%E3%82%B3%E3%83%9E%E3%83%B3
この作品の特徴は、制作に関わった人々すべてが梅川昭美に対してかなり「寄せている」ということ。
少年期から事件までの彼の人生をフィクション交えつつ丁寧に描いている。明らかに何がしかのシンパシーを感じている風だ。プロデューサーは井筒和幸なんですね。
タイトルは竹田が胸に入れている薔薇と虎のタトゥーのことで、冒頭に「こわ(く)見えたら何でもええんや!」と、刺青を彫るシーンがある。
(刺青師を演じるのは泉谷しげるで、他にも原田芳雄、植木等、ポール牧などゲスト出演が豪華。主題歌は内田裕也の『雨の殺人者』。思いっきり、寄せてるなあ)
で、これをチラ見させ、借金取り立てなどのこわい系の仕事を請合う。しかしこの程度の墨でビビらせることが可能だったのだから、平和な時代でもあります。
母親は息子を溺愛している。「30は男のけじめ」と固定観念を植え付ける。
息子は母親思いで(マザコンと言ってもいい)、母の教えどおりに30で「でかいこと」をやるのだが、それがかなりムチャな銀行強盗だった。
本人にとっては「でかいことをやる」のが最大の目的で、結果はどういでもいいと思ってるような節がある。
こう書くとあれですが彼にとっては「自己表現」だったのだろうか。少なくとも制作陣は「その意志」に共感する部分があったのではなかろうか。
事件そのものはカットされている。やらかした行為があまりにも残酷でえげつないからか。そこまで描くと「悲劇のヒーロー」じゃなくなるからか。
母親思い+大志ありという図式に「銀行強盗」をかけたら、すべてがゼロになった。あ、マイナスか。
関根が新しい男を宇崎に紹介するシーンがある。男は「鳴海」と名乗る完全なヤクザで「そのうちでかいことやったる。新聞でおれの名前を見つけたら友達って言ってええで(だったと思う)」と宇崎に告げる。
多分モデルは山口組の抗争で有名なヒットマン「鳴海清」じゃないだろうか。この二人が出会ったというのは映画的な演出なんだろうけど。
そして宇崎はセフレみたいなつきあいの女の子にまったく同じセリフを吐く。きっと「カッコええな~」とか思っちゃったのだろう。
ラストは夜行列車のプラットホームに、息子の遺骨を抱えた年老いた母親が降りる。
そして、事件のときに気取って身につけていた息子の形見である「ハット」をかぶる。そこに流れるのが宇崎竜童歌唱による『ハッシャバイ・シーガル』。
凶悪犯罪者を完全に美化しすぎである。が、そこは映画なので。めっちゃ感動します。
女性はまったく受け付けないだろうと思います。男泣き限定作品。