『ザ・フライ』(86)の公開当時、この作品を「究極の純愛映画」と謳っていた雑誌があったような気がするが、どっちかというと究極の変態映画であります。もちろん昆虫の変態とヘンタイさんの変態のダブルミーニングである。
主人公の科学者(セス)、ジェフ・ゴールドブラムという人は昆虫の複眼を思わせるギョロ目なので、いかにもハエと合体しそうなタイプ。
彼は物質転送機「テレポッド」を研究している。その取材に来た女性記者(ヴェロニカ)といい感じになったのはいいが、かつて同じ編集部のデスクと恋愛関係にあったことに嫉妬して(かなり童貞をこじらしていたと思われる)、ヤケ酒をあおったあげく酔った勢いで(うひゃ)未完成のテレポッドに自らを転送。
無事成功したように見えたが、装置の中に一匹のハエが混じっていたのでいろいろ大変!というお話。
オリジナル版「蝿男の恐怖」の主人公は転送後、頭と左手がハエというモンスターになってしまい、ならば「頭が人間のハエ」を見つけ出してもう一度転送すればもとに戻るんじゃね?という牧歌的な筋だったが、粘着ホラーの大御所であるデビッド・クロネンバーグはもちろんそんなものはつくらない。
遺伝子レベルでヒトとハエが融合するのである。科学的にも正しいと思う。
融合した直後はやたらとパワーにあふれ気分もハイテンション。しかも甘党になる。
ヴェロニカにも「君もやろう。ちょういい感じになるぞ」と転送プレイを強要。
それを拒否されるとムカッ腹を立て街に繰り出し、ナンパしたねえちゃんと致してのち、やっぱり転送プレイを強要。もちろん拒否られる。
調子こきまくっていたのはわずかの間で、そのうち細胞同士が拒絶反応を起こし、セスの容貌はみるみる崩れていく。ただ彼は「科学の子」なのでこの変化を進化と解釈し、次の段階を期待し始める。究極の変態ですね。
壁を歩ける能力もつき、これがクモと合体したならばスーパーヒーローだが、なにせ相手がハエなもんで、ドロドロした液体を吐いて食べ物を溶かし、それを美味しくいただいたりする。
(実はコールスローをつまみながら鑑賞していたので、ちょっと気持ち悪くなりました)
ヴェロニカはセスの子を身篭っていたので、中絶しようとして病院にいた。そこに見かけは気色悪いが動きは俊敏なセスが現われヴェロニカを誘拐。それから先は大盤振る舞いのクライマックス!
CG登場以前の着ぐるみ特撮ではあるのだが、セスの変貌がトラウマ級にエグくて、続編があるのを知りつつもずーーーっと無視していたのですけれど、ようやく昨晩拝見しました。『ザ・フライ2 二世誕生』(89)を。
クリス・ウェイラスという全然知らない監督が撮った続編。
結局、ヴェロニカはセスの子供を産むのだが、難産でそのまま死亡。生まれた男児(マーティン)は発育異常で、5才にして成人。
父親が残したテレポッドを完成させるための研究所にて、監視され育つ。
研究員たちもテレポッドを使いこなせておらず、マーティンと仲良くしていた犬を実験として転送。
これが作品中もっともかわいそうなエピソードなんですが、ふさふさで利発そうな犬は転送後、赤黒いグロテスクな生き物に成り果ててしまう。失敗である。
研究所の夜勤・ベスとマーティンはいい仲になり、彼女の誘いで仲間内のパーティーに参加してみると「あの犬」が生きていることを知り、マーティンはかつての友達を泣きながら殺す。
(ここが「因果応報」なラストシーンにつながっていく)
マーティンは知能も天才的で、テレポッドの使用法も解き明かすのだが(研究所には教えない)、父親の体質を継いでいるので、同じようにじわじわと容姿が崩れていく。実は研究所はそれを知りつつ、サンプルとして経過を見ようとしていたのである。なんたる鬼畜。
そしていよいよハエ男に変態したマーティンが研究員たちにリベンジ!キチクなカガクをぶっ殺せ!
なんだかんだで人間ドラマだった前作と違い、ここから正統派のSFホラーである。
が、この「ハエ男」のデザインが一筋縄ではいかない。頭がハエというゆるキャラのようなものではなく、例えれば諸星大二郎描く「ヒルコ」に近い(出典・妖怪ハンター)。
なるほどたしかにこのシリーズの粘着性は、諸星漫画と通じるところがある。
二本で三時間強。通してみると世界観が完結する。ただし、かなりグロい作品なので体力をつけて臨みたいところ。これが地上波で流れてたってのも今思えばすごいことだが。
鑑賞中のコールスローサラダは厳禁。