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すうさい堂の頭脳偵察~ふざけてません。

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しりあがり三題



メディアのパーソナリティーの「いろいろあった今年ですが」という発言をよく耳にする年末ですが、それを聞くたび「いやいや過去形にしてますけど事態はなんにも解決してないでしょう、むしろ現在進行形ではありますまいか?」と思うのです。
そんな中で読み返す、しりあがり寿『方舟』はかなり痛い。
雨が降り止まない世界。農作物への被害は深刻になり、町の「水かさ」がどんどん上がっていく。
それでもテレビはおちゃらけを放送し、「なんとかなる」と高を括ったサラリーマンは自宅待機してパソコンを見続け、歯磨き粉の宣伝キャンペーン用に作られた「方舟」に助かりたい一心の人々が我先にと乗りつけ、すべてを悟った上京組は家族を連れて自分たちの田舎へ帰るが、たった一軒残った高台の家すら水没していく(このシーンが一番切ない)。
方舟に乗れた者たちは食糧難でどんどんボロボロになり、それでも「雨がやんだら」昔の仲間とダンスを踊るためによろよろと練習を始める女子や、この状況で結婚するというカップルに対し、かつて夢や希望を歌っていた若者は「この期に及んでまだ希望だと・・・・」「お前らみんなバカか!!」とブチ切れる。
「私はいつだって私のために最善の努力をしてきたのに・・・・」、全部チャラ。
そして水位はいよいよ高層ビルを越え、かつて「空」であった場所に人々がぷかぷかと浮かんでいるという、漫画でしか表現できないラストの見開きは、繰り返し描かれてきた人類の終末の中でも、最も美しいもののひとつ。

「80年代ヘタウマギャグ」でデビューしたしりあがり寿氏は、近年そのペンネームとは真逆の、狂気や死を扱った誰よりもダークな作品を発表している。
『瀕死のエッセイスト』は大病を患っている主人公がさまざまな「死を想う」連作。
その死はブラックだったり、悲しかったり、優しかったりする。
解説の田口ランディ氏が「しりあがりさんの描く『死』はユーモラスで愛おしい」「だから読み終わってから、じっと抱きしめていられる」「そういう作品が、この時代にあることの意味は、とてつもなく大きい」と書いているように、実は癒し系。登場人物のほとんどは穏やかに自らの死を迎え、あるいは最初から「ほのぼのと」死んでいる。
死を恐ろしく書けば書くほどエンタメだが、こうした手法でやられると死も「詩」だな、なんて思ったりする。
確かに自分が病気で余命いくばくもないとしたら、そっと枕元に置いておきたい一冊。
「生きろ」なんて一言も書かれていないが、ラストのエピソードはまごうことなき「生」に対する控えめな希望。
元気で一生死なない人は読まなくても大丈夫です。
(同じ主人公が生命力あふれる「トレンディースポット」に繰り出し、水戸黄門のように「死を想え!!」と毎回喝破する、『メメント・モリ』もおすすめ。瀕死のくせに意外と働き者だ)

『ア○ス』はホラーよりもホラーな、「不条理な狂気に満ちた作品」などと書くと平たすぎるほど、凄まじい毒気を放つ。この不穏なイメージは、ちょっと文章では伝わりにくい。
「線」が怖い。線だけで怖いってのは本物。
個人的に楳図かずお・日野日出志・山岸涼子がホラー漫画家三羽烏だと思っているのだけど、ここまでやられるとしりあがり寿もその列席に加えたいと思う。
もちろんストーリー自体はしっかり構成されている「まがいものの狂気」なわけだけれど、ページからこれほど禍々しいにおいを放つ漫画にはそうそう滅多にお目にかかれないよなと思っていたら、連載誌は「ユリイカ」ですかそうですかと納得。これは狂気をギリギリまで引き寄せた、むしろエンタメだとは思うのだが、鬱気味の方は手に取らないほうがいいかも知れない。
「境界線」を表現することにおいて、しりあがり氏は実はめちゃめちゃテクニシャン。これを読んで「ヘタクソで意味不明」と感じたあなたは健全で健康。でも、それはそれで正解。
カバーをめくると分かる、ラストの大オチも凄い。

『ア○ス』と『瀕死のエッセイスト』のカバーがすごく洒落ているなと思ったら、デザインはやっぱり祖父江慎さんだった。読み捨てされるべきではない本には、それに見合ういい装丁が施されないといけませんよ、ほんと。

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