望月ミネタロウ『東京怪童』(全3巻/講談社)読了。
脳に疾患を持つ子供たちを専門に治療している病院が舞台。
主人公の「ハシ」は思ったことをすべて口に出してしまう。相手かまわずに本心の罵詈雑言を浴びせるので、しょっちゅうボコボコにされている。
あなたもわたしも「本音を隠す」という機能が搭載されているから平穏に暮らせるが、それがなければ街中が毎日バイオレンスである。
「花」はTPO関係なしにいきなりオーガズムが襲ってくるという症状。
「マリ」は自分以外の人間を認識できないため、たったひとりの世界の住人。
「英雄」は痛覚神経がない無痛症。ゆえに自分をスーパーマンだと思っている。
自分の喋ったことを端から忘れてしまう重度の「健忘症」のため、常にメモを取り続けている少年もいる。しかし、そのメモすら彼には何のことだかわからない。
病院の警備員かと思われていた「二本木」は、マンガの主人公に自分を重ね合わせているだけの患者だった。
彼らの治療をしているドクターの一人「玉木」は自分らしく生きようと仕事と家族を捨て、女装趣味を生かせるおかまバーで働く。
なかなか際どいテーマだけどこれは名作。途中でハシの創作として挿入される、空飛ぶペンギンのエピソードもよい。
ラスト、ハシは自分の症状を取り除くため脳手術を受けるが、失敗したら死ぬかもしれないという危険なもの。つまり本音を捨て嘘がつけるような「正常な」人間にするための賭け。
この辺の流れはちょっと感動するので手にとって読んで頂きたい。そして花の「どんなに最悪だと自分の事を思っても/私は『まし』ってこと」の言葉が刺さる。
何の解決方法も見出せない状況でも「まだマシ」と思えれば、人間ってナントカやっていけるのかも知れない。
で、ジャック・ニコルソン主演の映画『カッコーの巣の上で』(75年)を思い出したのだけど、これは逮捕されたニコルソンが「ムショよりはマシ」ということで、詐病を使い精神病院に入院する物語。
彼は別に精神疾患があるわけじゃないから常に元気であり、患者たちを外に連れ出していろいろなことを教える「ワルい兄貴」。が、患者たちはどんどん生き生きしてくる。
結果的にニコルソンには悲劇の結末が待ち受けていて、まともに服役していればこんなことには・・・なのだけど、兄貴はきっと、どうしても逃げたかったんである。
逃げるを「自由」に置き換えてもいいのだけど、これを続けるのも案外しんどい。責任逃れと映っても、理屈はうまいこと言えないが、理由はあるのです。
この靴カッコいいと思って買って、いざ履いてみたら意外と重くて歩きづらかったりして、しかしその靴のシルエットが自分には必要だったりする。そういうこと。
すみませんが今週は10日(火・お休み)、11日(水/祝・営業)、14日(土・17時まで)、あとは通常とさせて頂きます。