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すうさい堂の頭脳偵察~ふざけてません。

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シンパシー・フォー・ザ・高橋ヨシキ



これほど「映画を観たい!」と思わせてくれる本は久々だった。高橋ヨシキ著『悪魔が憐れむ歌』と『続・悪魔が憐れむ歌』の二冊(どちらも洋泉社)。
「暗黒映画入門」とあるようにホラー・バイオレンス・カルト・やらせドキュメントといった「残酷で奇妙でねじれた」」作品ばかりが紹介されているので、もちろん万人向けじゃない。
だが著者が繰り返し主張する「映画が残酷で野蛮で何が悪い」「行き過ぎたショック表現は笑いを生む」に共感する者(簡単に言えば映画秘宝ファン)には、刺さってくるものがある。
何かというと叩かれるジャンルだがそれに対して高橋ヨシキは「みんなは何一つ間違ってない!」と、喝破してくれた。
検察官のような批評家は多いが、彼のポジションは完全に弁護士。考えてみれば今までこういう人がいないという事のほうがフェアじゃなかった。
風当たりも強いとは思うが、「このジャンルはオレが死守する」という姿勢のストロングさ。「政治的になんとか」みたいなクソ社会のモラルを否定するために、彼は「悪魔主義者(サタニスト)」を自称しているのだと思う。
だいたい「人が簡単に死ぬ映画なんかダメだ」みたいな戯言は、生涯まともに一本の映画も観たことがないようなバカにだって言える。悪いねー、オレはやっぱり、いっぱい人が死ぬところがみたいんだわ。
だったら『タイタニック』は?1500人も死ぬじゃんか。リア充を山盛りに乗せた旅客船が「まるっ」と沈むのを観て「キターッ」と泣く(盛り上がる)のだろ?それは悪趣味じゃないのか?
しかも溺死。殺人鬼ならば「いいひと」に当たれば、サクッと一発で殺してくれる。
とか書いているがもちろんジョークであり、こうしたジョークがわからない人にはこの本で紹介されているような作品は理解できない。要するに心の余裕がちょっとだけ必要ってこと。
ちょいちょい「ぶっ殺せ!」「みんな死ね!」みたいな語彙を使うヨシキ氏ではあるが(この著作ではさすがに少ないけど)、行間の読めない人に言っておくとそれは「リップサービス」なのであり、「もっと映画を楽しめよ!」ってことなんである。おわかりか?

ホラーなんてのは特に、有名な俳優はいないし予算も組めない若者でもアイディアと情熱があれば、鮮烈な作品を作ることも可能なクリエイティブなジャンルなので、DIYの姿勢も含めパンク的である。
『悪魔のいけにえ』撮影時の灼熱地獄、『死霊のはらわた』撮影時の極寒地獄(「続」に詳しい)といったリアルな地獄を乗り越えたクルーたちの作品は、スクリーンに地獄の花を咲かせてくれた。
昨今も「ムカデ人間シリーズ」を世間にぶちまけたムービー・テロリスト、トム・シックスなんてのが登場しており、まだまだセックス・ピストルズみたいな爆弾を抱えた連中がウロウロしている。素敵じゃないか。
ちなみにホラーに良心なんかいらないので、ここにクラッシュはお呼びじゃないのだ。クラッシュは「不発弾」だから(そこが好き、なんだけれども)。

何か起こると影響力が云々と言われるのは『13日の金曜日』などの有名な作品だが(サカキバラの時もそうだった)、正直なところマッチョな怪人が若者を殺していくという展開がローティーンワークというか、なんだかフィジカルでさえあるよなあというイメージであまり興味がなかった。「エルム街」のフレディに至ってはおしゃべりでウザい親戚のおっさんって感じ。
が、この二冊を読んで考えが変わった。「自分が好きなのはああいうのじゃないんで」といった言い訳を封じるためにも、13金もエルムもちゃんと観ておこうと思う。
(いま手元に『フレディ対ジェイソン』がある。こりゃ、ドリームチケットですね)
サカキバラといえば元少年A名義の『絶歌』が売れまくったという事実のほうが、よっぽど狂ってるし忌まわしい。あの本を買った人間に「つくりもの」を糾弾する資格は一切ない。

だがしかし、世間様はこのようなジャンル・ムービー鑑賞より楽しいことがあるらしく、それはカラオケ/合コン/ドライブ/温泉旅行/テーマパーク/デイト/おしゃれカフェ/家族間の信頼など、枚挙にいとまがない。
でも大丈夫。我々にはタランティーノやイーライ・ロスや三池崇史がついていていい人も悪い人も分け隔てなく血祭りに上げてくれる。
少なくともオレは自分の人生がクソだから、映画を観たり音楽を聴いたり本を読んだりしている。
彼らの表現の「邪悪さ」を糧にして、どうにか自分もタフになろうとしている気持ちが多分にあるのだと思う。
あたらしく「悪いもの」を知ると、嬉しい気持ちになる。「人生が楽しい奴らはこんなの知らないだろ?ざまあみろ」っていう気分。鼻持ちならないと思ったら放っておいてほしい。こっちにはこっちの楽しみかたがあるのだ。

ミシェル・ファイファーのキャットウーマン&『愛の嵐』のシャーロット・ランプリングをプリントしたカバーは「乗るかそるか」を一瞬で要求する。すんばらしい装丁だ。内容も然り(正直、自分の頭には難しくてよくわからない章もあるのはあるが)。
最低すぎて市場にほとんど出回らない伝説級のクズ映画(パッケージすら見た事がない)『悪魔のしたたり』をこれほど愛情と尊敬をもって書かれた文章は空前絶後だろうと思う。なにせ『ロッキー・ホラー・ショー』と同列に語っているのだから。
モンドの巨匠・ヤコペッテイに対する揺るぎないリスペクト、『エクソシスト』に関する詳細なルポ、マニアだからこそ一発で通じる監督たちへのインタビュー。引用される作品の多彩さでもわかるが、グロだけじゃなくあらゆるジャンルを知り尽くしている。本気で映画が好きな人だ。
特に『バットマン・リターンズ』に関する考察力にはため息すら出た。
まえがきもあとがきも最高としか言い様がなくて、特に「続」のまえがきは涙腺がゆるみそうになる名文であり、堪えながら引用。

光が照らし出してくれるものは愉快なものとは限らない。
ゆらめく光は美しいものや気高いものを映し出す一方で、醜悪でおぞましいものの姿も浮かび上がらせる。


(略)そういう便利な「光」のさすことのない、薄暗い世界にとどまり続けるぼくのような種類の人間は「哀れ」で「気の毒」な人たち、と「明るい」人たちの目には映る。
本書はそういう明るい世界に向けて拡声器で怒鳴りつける「ファック・ユー!」である。




しかし、ゴールデンウィーク中になに書いてんだろ。

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