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すうさい堂の頭脳偵察~ふざけてません。

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伊藤潤二はびっくり箱である



ところで、手塚先生が作品中もっとも多用するフレーズって何か知ってます?
自分のリサーチによると「ウヒャーッこりゃひでェ」である。
事故でグシャグシャの遺体が出て来ても「ウヒャーッこりゃひでェ」、もんのずごいブサイクなおばさんが出て来ても「ウヒャーッこりゃひでェ」。たしかに読み手もそう言われると、何となくテンションが上がる。
この「ウヒャーッこりゃひでェ」に特化したジャンルがホラーで、伊藤潤二『うずまき』を久々に読んだ。
どのページをめくっても「ウヒャーッこりゃひでェ」の乱れ撃ち。ははは。
しかしこの人の作品は、グロテスクであってもポップである。つまりアイディアが「びっくり箱」。
中盤でとんでもないモノがいきなり登場し、そのままドドドドっとラストへ。実際、オチは弱いかなーという気はする。

うずまきによる怪奇現象に呪われた町、黒渦町。伊藤潤二作品といえば「美少女」であって、主人公の五島桐絵さんも然り。彼氏の秀一君は「親父がおかしい、渦巻きに異常に執着している」と最初からノイローゼ顔。
この親父さんは特注の丸桶に入り、自らの体を渦巻状にして死ぬのだが、この絵の見開きがぶっとんでる。初見はもう「あっ!」って感じで、ほとんどギャグの域にも達している。この作者、ジャンル的にはホラーだけど怖いと思ったことがないのはつまり「あっ!」=「ぶっ(笑)」に転じてしまう紙一重なセンス。
身体中を「渦巻きの空洞」に食われて消滅してしまう少女。渦巻状に自己主張を始める髪の毛。身体中をねじれさせて合体し、海に消えるカップル。なぜか人間がカタツムリに変身する現象(ヒトマイマイ)。エトセトラ、エトセトラ。
これらがすべて「呪い」で片付けられ、オチは投げっぱなし。
いくらバラバラにされてもパーツで蘇生していく「すくすくせいちょうホラー」の『富江』もそうだが、この人の作品は潔いくらい、意味もメッセージもゼロ。
どれだけ読者をびっくりさせられるか、ということに特化しているように思う。
繰り返すが、伊藤潤二は美少女が抜群にうまい。
ホラーが支持される要因として「女の子がかわいい」といのが昔からの定石で、自分も当然『恐怖新聞』より『エコエコアザラク』が好きだった。

先人である楳図かずおや日野日出志には、容赦ない描写と共に深遠なメッセージがある。
『漂流教室』では巨大な怪虫が暴れるが、実は小さな虫の大群となった怪虫が「ザザザ」と子供たちに襲いかかり、骨にしてしまう描写のほうが凄惨。
「あけてっ!!」「あけてくれーっ!!」と叫ぶ彼らを閉じ込めてドアを塞ぎ、犠牲にしてしまう主人公たち。
「だって、しかたがなかった!!」。ほんと、よくこんなの描いたもんだと思う。
日野作品で忘れられないのが『水色の部屋』で、子供を中絶してしまったカップルと稚魚を産むグッピーが対照的に語られる。
おびただしい数の胎児が「なんで殺したんだ~」「寒いよう~」と女性に群がる描写がショッキング過ぎて(彼女の幻覚なのだが)、さすがに読後すぐに捨てた。あれほどおぞましい漫画は読んだことがない。
「やるなら徹底的にやる」という作家魂に、ポップさは微塵もない。

なぜしつこく「伊藤潤二は意味がない」と書いているかというと、本書の解説がひどすぎるから。
元外交官の作家が「本書は21世紀の資本論だ」「伊藤潤二はマルクスなみの天才だ」とぶちあげているのである。
天才ということに異論はないけれど、いちいち弁証法だの格差社会がどうのと、ひどいこじつけをしている。
っていうかなに言ってんだか全然わかんねぇ。
作家なのに文章の意味がまるでわからない。意味が伝わらないのはアホの文章なのであって、本を買ってこの解説を読んだ人は全員げんなりしたんじゃないか。そうだったのか!なんて思う人はまずいねぇよ。
お門違いもいいところで、マルクス語りたいなら他でやればよろしい。完全な人選ミス。
帯にも「今日の格差・貧困社会の到来を予見したホラー」のコピーが舞っていて、あっはっは、である。
これをどう読んだらそんな解釈になるのか全然わかんねぇ。
せっかく「無意味でポップな、単なるホラー漫画の力作」を描いた著者も、これじゃあ浮かばれない。
表現からは高尚な意味を見出さなければいけない、という精神が貧困そのものなんである。

ぶっちゃけ、この作家が原作で、伊藤潤二作画による作品(軍事ものらしい)が当時連載されてたという事情による「事故」なのだが、そんなの読んでるファンがいたとも思えない。
ウヒャーッこりゃひでェ。

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