以前から気になってはいたのだが、流通網から「こんな商品は扱いたくありません」と取次ぎを拒否されたというなかなかのレアもの・『まんがサガワさん(佐川一政著/オークラ出版)』が入手できたので、読んでみる。
猟奇犯罪者が自分の犯行を「まんが」として発行したという意味では、奇書と呼んで差し支えないと思う。
まさに「人を食った」本。なんちて。
しかしこの人はどうも罪の意識が薄いんじゃないかと思う。
かの『デビルマン』では、カメの姿を模したデーモン・ジンメンがデビルマンに向かって、「俺は殺したんじゃない、食っただけだ」「人間の感覚じゃ動物を食うことは悪い感覚じゃないからな」と言い放つのだが、それに沿ってみればサガワさんも「僕はルネさんを殺してはいません。食べただけです」ということになるんじゃないか、その辺を理解して欲しくて執筆しているうちに「作家」なんて有難い肩書きまでついてしまったんじゃないか、などと思う。
しかも彼は自分を「キラーエリート」だと思っている節がある。月面着陸をやってのけた、みたいなノリか。
が、カニバリズムの歴史を紐解けば、少女を「じっくりことこと煮込んだスープ」にして全部平らげ、ご丁寧にもその両親に「大変おいしゅうございました」と手紙を送りつけたアルバート・フィッシュとか、54人殺したうちの何人かはお召し上がりになったであろうロシアのチカチーロとか、黒人の男性ばかりを殺して食べ、警察が踏み込んだアパートには冷蔵庫に生首、鍋には性器や内臓が入っていたというゲイのジェフリー・ダーマーなどのつわものがいらっしゃるので、サガワさんなど実はまだまだ幕下なんである。なんちて。
ただ彼の場合、「食べ残し」の現場写真が流通してしまっているので、その衝撃はかなり大きい。
この本もカバーを外すと、ばらばら血みどろの写真がコラージュされている(要するに遊んでいます)。
マンガ自体は稚拙なんだが、事細かにその蛮行が描写されているので、こういったものにある程度免疫がないと、マジで気持ち悪くなると思う。
まあしかしこの人は常にマヌケと背中合わせの運命にあるようで、被害者の死体を鞄2個に詰め、シータク呼んでブローニュの森に捨てようとしたのだが、フランス初夏の午後8時はまだまだ真昼で悪目立ちし、自力で湖に捨てようとしたがまるで動かず、そのうち疲れ果て「きれいな夕陽だなー」などと思っているうちに(この辺が常人の感覚ではありませんが)地元の大男に鞄をこじ開けられ事件発覚と相成りました、という。
そんなこんなであるので、この事件にはちょっとだけ「ユーモア」すら感じられるのである(とか書いちゃいかんのだが)。
他にもイッセイ氏のエッセイが収録されているのだが、それによると「佐川一政無罪放免」の裏には、佐川父が一財産ぶん投げ、ありとあらゆる手段を使って息子を「精神異常」に仕立て上げたらしい。普通の親だったら「死んでこい」と言っても差し支えない事件であるというのに。
さらに自由になってからのサガワさんはプロ・素人問わず相変わらず外国人女性に入れ上げ散財し、あらゆる方法で借金しまくり、すべての尻拭いは全部父親という、究極の放蕩息子と親バカなのであった。
自分にはこちらの事実が衝撃的であった。
それにしても事件後、ある意味「名声」を獲得し、複数の女性と浮名を流し、殺人者としてはずいぶん幸福な人生だなー、などと思ってしまったのでした。
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