ここのところコミック界ではゾンビものがなんとなく盛り上がっているっぽい。
一番売れているのは花沢健吾の『アイアムアヒーロー』だろうか。導入部で主人公のぬるい日常を描いておき、どんどん異様な世界に突き進む展開が上手い。でも、ちょっと長いね。
深夜ドラマで設定がパクられたとかの(ほんのちょい)騒ぎになった福満しげゆき『就職難!ゾンビ取りガール』も面白い。仕事として淡々と「ゾンビ捕獲を行う会社」の人間模様。それにしてもこの人のシワを徹底的に描き込んで、巨乳を表現するフェチ手法は圧巻。
古泉智宏の『ライフ・オブ・ザ・デッド』も青春ゾンビものとしてなかなかだし、未読だが相原コージの『Z』もかなり面白いらしい。
で、突出してぶっとんでるのは、すぎむらしんいち『女(ジョ)ンビー童貞SOS』。
女だけがゾンビとなって男に襲いかかる世界。喰われた男もゾンビになる。
そんな中、かなりどうしょうもない種類の童貞たちと美少女処女が生き残るため、お約束としてショッピングモールを目指すのだが、そこがみんな大好き「中野ブロードウェイ」。
これはぜひ実写化して頂きたいところ。しょこたんの店もあるし、まん〇だらけを口説けばどうにかなるんではないか?どんどんシャレオツになっていく吉祥寺と違い、中野のあの建物が放つマグマは昔から変わらない。今だって普通に、マンガゾンビやアニメゾンビやフィギュアゾンビが徘徊しているのだから。
それはそれとして、個人的にはすぎむらしんいち氏の最高傑作だと思っているのが『ホテルカルフォリニア』(kkベストセラーズ)である。
北海道の辺鄙な場所でオープン予定のリゾートホテル。集められた従業員はアル中の支配人をはじめ、元ヤンやヘビメタガールや女装趣味など、どこかしらズレた連中ばかり。まともなのは配膳係のおばちゃんだけ。
メイドのエロいねえちゃんがホテルオーナー専属の(作品の表記に沿えば)売春婦であり、その集金をするため、二人組のチンピラがやってくるが、ホテルに着く前にそりの合わない仲間うちのヤクザと壮絶な内輪揉め。
余生を温泉に浸かって生きることをモットーとした世捨て人のジジイ軍団も登場。彼らは山中に広大な大麻畑を持っている。
ホテルの経営を放り出してオーナーが逃げ出し、土砂崩れのため山から降りられないと知ると、従業員たちの人間関係が一気にアナーキーに。元ヤンたちは「売春婦」姉さんを巡って血走る中、淡々と自分の趣味である女装コスプレを続ける男。ヒグマも登場。
さらにチンピラが持ち込んだ揉め事により、本家の組織と従業員、老人軍団とヒグマまで巻き込んでの大バトルがはじまる。
バカ×エロxヤクザxジジイxガンジャxヒグマ。
感情移入しにくいキャラばかりが登場するが、ストーリーはしっかり一本の線に繋がっており、ドタバタでもあるがバイオレンスでもある。
この作品(愛蔵版で上下卷)も品薄だろうし、並ぶくらい面白い『東京プー』は絶版。日本文化の大きな損失である。
ところでタイトルの「カルフォリニア」は間違いではない。ホテル表記を間違えて(CALFORINIA)建設されちゃっているから。ズレっぷりがエスカレートして展開していく本作を象徴していると思う。
今月号の『猫びより』(辰巳出版)に、当店が取り上げられています。
一志敦子さんの連載「ジオラマ猫処(ねこどころ)」にイラストで3ページ掲載。あと1ページはお隣のラブラバさん。
とても緻密に店内が描かれている。玉稿であります。ヂル会長も「黒猫という記号」ではなく、そっくりである。4・5回も来店して頂き、お疲れさまでした。
そしてタコ親父めはファジーにソフトフォーカスがかかっており、フキダシでファジーなことぉ喋っています。
しかし猫はどの子もかわいいなあ。猫好きは「うちの子うちの子」というよりは、猫という生き物全体に対する愛情があるような気がするのですが。この猫ピースエネルギーを平和利用できないものか。
あと、今月の『ポパイ』・特集「東京大冒険」の、吉祥寺の括りでも掲載されています。
「吉祥寺は東京のブルックリン」「カオス」「ハードコア」「エクストリーム」などのロック用語も舞っている。
玉稿であります。
しかし、ヨコから撮られると自分のブサイクさは誤魔化しようがないなあ。今度から「仕事しているポーズをしてください」等のリクエストは断固拒否しよう。全然面白くないじゃないですか。
そして、4月5日で12周年。干支一周。アホウですな。要するにこの屋号は「緩慢な自殺」だったのかと改めて思う。大事なことをうっちゃり切り捨て見て見ぬふりをしてきた「体のいいひきこもり」として12年。
世間体というものがいまだにわかりません。世間、知らないんで。
なにひとつとりえがない人間がやっている最後のとりえであります。もうしばらくよろしくお願い致します。
とりあえず、もはや吉祥寺の歴史に名前を刻んだんじゃね?という気もしますが。
芸能史における「まりちゃんズ」くらいには。
そんなわけで(どんなわけだ?←このツッコミも聞き飽きたのでいい加減おやめください)12周年記念大イベント『妄想紅白歌合戦』を高円寺4thで超地味に行って参りました。
これは私ともう一人のDJが、相手が出すナンバーに合わせて交代で曲を回し流れを作る、というもので(即興)、やってるほうはわりと楽しい。
自分は男好きな性癖もあり白組。洋楽は忘れちゃったが(途中で赤組のネタが切れて「ニールヤングは声が高いから女!」「ストーンズの『ミス・ユー』は裏声が入るから女!」と、例によってぐだぐだになった・・・)、邦楽はベタですが、選んだ10曲はこんな感じ。
故人も含んじゃってますが「妄想」なもんで、コンパクトだけど何となく紅白っぽくないすか?
「電光石火に銀の靴」泉谷しげる
「ヨコハマ・ホンキートンク・ブルース」松田優作
「ルパン三世 その2」チャーリー・コーセイ
「ストリッパー」沢田研二
「スローバラード」RCサクセション
「黒の舟歌」野坂昭如
「悪魔」美輪明宏
「氷の世界」井上陽水
「大阪で生まれた女」萩原健一
「さらばシベリア鉄道」小林旭
追:バサラブックスのオーナー氏が先ほど久々にご来店。
いろいろあったようですが、復活おめでとうございます。
バウスつぶれ、ビレバンつぶれ、10年前に比べると古本屋も徐々に消えて、もはや我々が吉祥寺サブカルチュア最後の牙城か?
くるくる携帯パソコン(皆さん片時も目を離せないようだが一体何が映ってんだ?あの世とか?)に使うお金のいくらかでもいいので、文化にお金を落としてください。
それが住みたい街ナンバーワン・吉祥寺市民の義務であります。
少し前に吉祥寺ホットペーパーから「書店員おすすめのカフェを教えてください」と電話がありまして、しかし聞く相手を間違えたというか、わたくしカフェーなどというところに行ったことがございませんので(カフェでリゾット食うならカレー屋を開拓します)。
そんなわけで記事にはならなかったのですが、カフェなるオシャレ空間で読むのに適したオシャレな本を紹介。
井口昇著・『恋の腹痛 見ちゃイヤ!イヤ!』です。
タイトルもカバーもかわいらしいですが、この人は真性すかとろまにあなので、書いてある内容はすべて「うんこ」(本人の表記による)についてです。
この頃の著者は現役スカトロAV監督で、自分がなぜそのような嗜好になりこの道に進んだのか、ということを理論整然と書いており、カミングアウト本としてはなかなか。
「美しいものが崩壊する姿にこそ興奮する」というのは分かりますが、それが「排泄行為」であるというのが、この人の業。
大量に食ったり浴びたりではなく、あくまで自然排便あるいは浣腸による強制排泄にこだわるという、わびさび。
スカトロ趣味を共有する若き日の「人間仮免中」卯月妙子さんと出会い熱を上げてしまいますが、作品で競演し、無理矢理食べてみせたところ「スカトロプレイは信頼」「愛情がある相手だから美味しいって思えるんですよ」「無理してうんこ食べてもらっても、私、つらいだけです・・・」と告白されて奈落の底に。
世の中にはこんな失恋の仕方もあるんだなあと、ちょっと感心。
その他、抱腹絶倒な「おならビデオ」の話や食糞マニアの驚くべき実態など面白いエピソードが満載なのですが、書いていて「これちゃんと読んでる人いるのか?」「今日はほとんど読み飛ばされてるんじゃないか?」という気がしてきましたので、久々のブックレビューはこの辺で筆を置きます。
しかし著者はAV男優~スカトロ監督~映画監督(「片腕マシンガール」「ヌイグルマーZ」etc)と、道なりをピンポンダッシュするような勢いで夢に近づき、それを叶えています。夢は叶うんです。夢をあきらめないで!
なんだかんだで、あとがきの数行にはちょいとほろっとします。
「もしかしてこの本を読んでしまうかもしれない僕の両親に、謝罪と特大の感謝を捧げます。
すみません、僕はこんな息子です。
でも、僕をつくってくれてありがとうございました。」
星園すみれ子氏による、ゴシックかつガーリーな本文イラストも味。
帯には森下千里さんと木村佳乃さん(なぜだ???)がコメントを寄稿。・・・・・やるね。
先日は池袋新文芸座で『ダイナマイトどんどん』『太陽を盗んだ男』鑑賞。
菅原文太追悼上映特集のひとつではあるのだけど、それはあまり関係がなく、この二つが観たかったんである。しかし、「映画を観た」という気持ちにさせてくれる二本立て。
『ダイナマイトどんどん』は岡本喜八監督の78年作。終戦直後の小倉におけるヤクザ組織の抗争を、野球の勝ち抜き戦によって平和的に解決しようとする破天荒なコメディ。
キレキレの菅原文太をはじめ、サーモンピンクなスカパラスーツの岸田森、あこぎな親分がすっかり板についた金子信雄、元プロ野球選手の傷痍軍人フランキー堺、クールなキタキン、ヨイヨイで言葉をちゃんと喋れない親分のアラカン(これを引きの演技というのだろう)、警察署長の藤岡琢也など、すべての登場人物が生き生きしている。比べてもしょうがないのだけど、すべてが相殺しあっていた実写版ルパンなんてものを思い出すと、要するに才能の差なんだろうなと思う。
で、ヤクザもん同士なので最後はやっぱりメチャクチャになる。「爆裂都市」みたい。
今までついDVDを手に取ることもなかったのだが、すっごい楽しい作品。シリアスなヤクザ映画を観すぎちゃった方に是非。
『太陽を盗んだ男』は大好きな作品で、今回初めて劇場で鑑賞。長谷川和彦監督の79年作。日本映画、大豊作の時代じゃなかろうか。
今も昔も映画界最大のタブーは「天皇と原発」と聞くけれど、両方ともぶち込んでいる作品。よく製作できたよな!と思う。しかも皇居前や国会議事堂のシーンなど、絶対ゲリラ撮影である。
主人公の沢田研二扮する理科教師がプルトニウムを盗む原発内部のシーン。許可なんかされるわけないからセットなんだけど、この完成度がすごい。いや、見たことないし、知らんけど。
さて首尾よくプルトくんを盗み出したジュリーだが(そんなこと現実的にはあるわけないんだが、忘れちゃいけないのはこれは映画であるということ)、自宅で精製してインディーズな原爆を作ろうとする。
「鉄腕アトム」を口ずさみつつ、プルトニウムをオーブンに入れて待っている間、ビールを飲みながらナイターを観ていたら爆発。
このような彼の「ゆるキャラさ」が作品のキーであって、実はお茶目なジョークがあちこちに出てくる。
ジュリーが学校でターザンの真似してロープからぶら下がり、「アアア~!」と叫ぶシーンは布石になっているので、ご注目。
そして、彼がよく噛んでは膨らませている「風船ガム」の儚さは、原子力発電の危うさを象徴しているのだろう、なんてことを書くのは本当は無粋(だがそれは、現実に起こったんだけど)。
めでたくお手製プルトニウム爆弾が出来上がると、ボブ・マーリーの「ゲット・アップ・スタンド・アップ」をかけながら大はしゃぎ。ボブ師もこういう風に使用されるとは思わなかっただろうな。
で、そいつを政府に送りつけゆさぶりをかけるのだけど、いかんせん、欲しいものがない。
当時はいつも途中で切られるナイターを最後まで放送しろとムチャぶりを言ったら、通った。
次は生放送のDJ(池上季美子)との接触により、当時バリバリのジャンキーを抱えていた「ローリング・ストーンズ」の来日公演をさせろ、とリクエスト。まあ、なんでもよかったんだろう。
警察とのカーチェイスやサイボーグのような刑事・菅原文太(やっと書いた)との一騎打ちなどありつつ、彼の体は静かに被爆していた。
この作品の素晴らしいところは、純粋なエンターテイメントになっているところ。
つまりプルトニウム爆弾は「夢を実現するためのアイテム」として描かれているので、反原発のプロパガンダとしてはまったく使えないんである。
製作から数十年を経て、未曾有の原発事故を体験した我々が普通に観られて、しかも拍手喝采をおくることができる百年に一度の名作。
全人類(の良識)を敵に回すような、悪魔的なラストも秀逸。リメイク絶対不可能。
ずっと日本のアングラロックが好きだったのですが、最近注目しているのが井上陽水という人。みんなはもう知っているかい?
もとい。国民的歌手である。しかしながらこの人がかなりの割合で放つ「悪意」を考えると、それが不思議であると、昔から思っていました。
大ヒットアルバム『氷の世界』のタイトル曲における強烈な皮肉。「みんなガンバレ♪」のサビだけがCMで使われた『東へ西へ』における狂った情景。夕立をまるで世界の終わりのように表現した『夕立』。夜行バスの運行を幻想的に歌った『夜のバス』。
「バスの中は僕一人/どこにも止まらないで/風を切り走る」って、それ本当にバスなのか?
と思えば、『心もよう』(これは大嫌い)、『夢の中へ』(斉藤由紀のユーロビートバージョンも有名)、『少年時代』『リバーサイド・ホテル』『いっそセレナーデ』などの国民的ヒットを「しれっと」した風情で飛ばしている。
例えば『ジェラシー』をたまたま聴いた御婦人が「あーらいい曲ねえ」と、それが収録されている『あやしい夜をまって』というアルバムを購入すると、極めてパラノイアックなイメージが疾走するロックンロール・『My House』などがもれなくついてくる。
一貫した本人のノンポリぶりも考えてみればすごい。
二百万枚を売り上げたという驚異のベストアルバム・『ゴールデン・ベスト』。大・人気者。
その影でひっそりとリリースされた風情の、本人選曲による裏ベストが『ゴールデン・バッド』。
「CD売ってくれて沢山ありがとう♪」と、会社からのご褒美なのだろうけど、すべて80年代以降の曲で構成されたマニアックなもの。要するに、まともに売る気が無い。
本人言うところの「ひどいテカり具合」を集めた。
しかし、陽水氏の毒気を堪能しようとする向きには格好のアイテム。
バラバラに分解されたのち、再構成された日本語があの声に乗る。
そして、彼の声とロカビリーは、意外と相性がいい。『ダメなメロン』や『Be Pop Juggler』などを聴くと、こっちの方がサイコビリーなんでは?とか思う。
オリジナル・アルバムとしては78年の『white』が一番好きなのだが、その前後作『招待状のないショー』と『スニーカーダンサー』も名盤。
特にこの時期のブラックな曲における「ひどいテカり具合」はどす黒さを増しており、『青空、ひとりきり』『曲り角』『娘がねじれる時』『ミスコンテスト』『青い闇の警告』などは、もうパンクだろ?(←何でも尺度をパンクで考える馬鹿)。
力士が通る花道に触る手の中のひとつにカミソリが混じっていたのサ、という内容の『事件』のアレンジは、なんとレゲエである。十重二十重の悪意。
そして、プレス加工職人の日常を徹底的に突き放して歌う『灰色の指先』に至っては、なんてこの人は「ひとでなし」なんだろうと思う。山野一の漫画を思い出しちゃったよ。
80年代なら『とまどうペリカン』がヒットした時期の『ライオン&ペリカン』がおすすめ。
当時のNWなアレンジと寝たような作風。歌詞も支離滅裂度を極め、それが自分にはフィットする。
宮沢賢治への返歌『ワカンナイ』なんてのも収録されてます。
それ以降になるとだいぶ緩い曲が続く中、「あれ?」「おや?」といったナンバーが時折混じったりしつつ、いまも現役であらせられるという稀代の不思議ミュージシャン。すっかりジェンダーフリーになって、一見、おじさんだかおばさんだかわからなくなっている。
しかし、歳を経るごとにボーカルが猫っぽくなっていきますなあ。
そしてこの人の声は安定し過ぎていて感情がまったく見えない、という不思議。