『ロック画報⑲』(ブルース・インターアクションズ)読む。特集・フリクション(もうひとつの目玉はクレイジーキャッツ)。
レック自らがフリクションの歴史を語った貴重なインタビュー収録。
フリクションといえばファーストの『軋轢』で、これについては当時のライブの凄さに比べたら全然迫力がない、という声も多い。坂本龍一教授には初期フリクションの襲いかかるようなパンクは、敷居が高すぎたのかもしれない。
たしかに、この本の付録CDのライブ4曲は激烈だが、スタジオ盤のねちっこさというか、ぬるりとしたテンションは80年代独特のもので、これもメチャクチャカッコいいと思うのだが(紙ジャケリマスターが出てるので、そちらが断然おすすめであります)。世界に誇るジャパニーズパンクの名盤。
「東京ロッカーズ」の中でも軍を抜く存在感。並列じゃないだろうと思う。
生活感がまったくない。カタカナの「トーキョー」から抜け出してきたようなクールな出で立ち。
パンクといえども「遠藤みちろう」や「モモヨ」や「町田町蔵」などのキャラの立った人々がバンドを引っ張ってきた部分が多分にあるのだが、レックはあくまでも、フリクションのレック。レックがいればフリクション。
本名いまだにわからんし、アルバムがそんなに売れてるわけでもないので、どうやって生活してるんだろうとちょっと思う。
現在は中村達也とベースボーカル&ドラムスのみのデュオ・フリクションとして活動中。50は超えてるはずなんだけど、ルックスもまるでブレないし、とにかく生活臭がない。
コトバ単体を羅列して吐き捨てるような歌詞も特徴的。
時に破壊的なくらいメチャクチャな詞を書く井上陽水にもちょっと通じるところがあり(「アジアの純真」なんて正にそうだと思うんだけど)、ルックスも何ミリか似てる(?)。
自分の出目をあまり語らず、ジャズに接近した時期もあり、グラサンキャラであるという点で、タモリ氏とも共通する匂いがある(ってのはだいぶ苦しい)。
レック、ツネマツ・マサトシ、チコ・ヒゲの黄金時代には間に合わなかったけど、89年頃に4人編成のライブは観た事があり、当時のバンドブームでしょーもないバンドがうじゃうじゃいたのだけど、それらとはまったく一線を画すものであった。
安易で直截的なメッセージを打ち出してる日本のパンクってのがどうも苦手で(今も昔も理解できないスタークラブ)、そう考えるとずっと好きなのはスターリンとフリクション。INUはもう聴かなくなっちゃったし、あぶらだこってのももうキツイな(やはり奇形的であるより、スタイリッシュさを伴うパンクが好き)。あ、アナーキーはどういうわけか「別枠で」好きである。
過去は一切すっ飛ばしてニューヨーク→東京。その立ち居地で何十年もfrictionしているレックという御仁はかなりの洒落者。
実はジャパニーズロック界有数のシャレオツ・ロッカー様である。
すうさい堂が目撃した時期のフリクション↓
市川海老蔵×柴咲コウ×三池崇史で「四谷怪談」リメイクだそうで、三池監督って大ヒットとおおハズシの落差が極端なのだが、ホラーとは大変相性が良いからこれはちょっと期待できるかも知れない。
四谷怪談史上初「お得意の」R指定で是非お願いしたい。自分なんかはもう「R-15」ってのは一種、安心のブランドというか、ドレスコードだと思ってる。
で、やっぱり押さえないといけないのは『東海道四谷怪談』(監督・中川信夫)。『地獄』と一緒にレンタル。TSUTAYA新宿店はレア映画の宝庫。
1959年製作の75分しかない作品なんだけど、怪談という枠を取っ払っても邦画史上屈指の名作ですよこれは。
顔が崩れたお岩さんのメイクとか今見てもゾッとするし、例の有名な「櫛で髪をすくと髪の毛がぞろぞろっと抜ける」日本人なら誰でも知っているシーンも、そこいらの流血シーンなど蹴散らすほどの気高い禍々しさである。
本作は、狂った人物が登場しないところが怖い。小悪党・直助にそそのかされて悪事を繰り返す伊右衛門(天知茂)は本当のところ心の弱い侍だし、直助は徹頭徹尾こすい奴だし、イエモン(めんどくさいのでこの表記で)に「お前、岩と関係しろ」と仕掛けられ「お前、間男の罪は知っておるな」と殺されてしまう按摩の宅悦は単なるエロ親父。お岩は基本的にピュアラブな人。
ごく普通の人間しか出てこないので「狂ってるぜ!イエイ!」と、ポップに盛り上がることが出来ないし、ひたすら彼らの「業」ってやつを見せつけられる。そこが『悪魔のいけにえ』や『ホステル』なんかとの明確な違い。その辺の作品って、実は本質的にポップなんである。そちらはそちらで好きだけど。
後半のお岩さんによるリベンジが見せ場。、落ちてくる蚊帳やうごめく蛇などを使った演出がカッコいい。
イエモンはお岩と宅悦の死体を戸板に打ち付けて沼に流すのだが、復讐シーンではその板が交互にひっくり返って「リャンメンで」恨みごとを言われます。ものすごく嫌です。
イエモンが「お岩、許せ」と真人間っぽく死に、子供を抱きながら成仏していくお岩さんのラストが本作の救いか。
森一生による『怪談 お岩の亡霊(69年)』なる作品では、イエモン役が佐藤慶で、実にアウトレイジなキャラで通した。そちらも名作。
『地獄(1960年)』ってのはぶっ飛んでる。CRAZYというよりは「MAD」なブツ。とりあえず生前に何らかの悪事を働いた「登場人物が全員」地獄に落ちるんである。他にないよ、そんなシャシン。
吊橋での簡単な小競り合いや、自殺や、集団食中毒(見事に全員死亡!)で次々と。実は自分、この展開に爆笑していたのだけど。
別に悪くないんじゃない?って人もまとめて地獄行きさ。これは、ポップじゃないですかね?主役はここでも天知茂が張る。がんばる。監督も同じ中川信夫。トバしまくっている。
オープニングタイトルでは半裸の女性が次々登場するが、これは「現世の業」を象徴しているのだろうか。うへえ安っぽくもわかりやすい、と思う。
地獄なので鬼もいるし、閻魔大王もいるし、責め苦もある。
印象に残るのが「皮剥ぎ」で、要するに俳優が首だけ出して、胴体を「刺し盛り」のように作っているのは見え見えなのだが、心臓がぴくぴく動いていたりして妙にグロテスク。これを公開当時見た人のトラウマたるや。
その他首をひっこ抜かれたり(これも体を埋めて首を出しただけ)、歯をつぶされたり、腕を切断されたり、血の池だったり針の山だったり賽の河原だったり。
唐突に終わる地獄のシーンと(無間地獄ってこと?)、妙にファジーなラスト。血の池を蓮の花に乗せられて流れていく赤ん坊(大変な役者デビュー)。
どちらも新東宝という、キワモノを売りにした徒花のような映画会社の製作なのだけど、これを観た社長さんはさすがに怒ったらしい。
そういえばかの石井輝男監督も『地獄』をリメイクしていて、当時まだ生きてた宮崎ツトムや毒入りカレーおばさんが地獄に落ちて刑罰を受けるってすげえ内容だったな。
後半なぜか丹波哲郎演じる「サムライ」が登場し、地獄の鬼をバッタバッタと斬りまくるというトンデモない展開。
元ネタをたどれば『忘八武士道』という作品からスピンオフしたキャラなわけだけど、そんなの何人がわかったんだ?
たしか「明日死能(あすしのう)」というお名前でした。ネーミングセンス最高。
『越境者 松田優作』(松田美智子著/新潮文庫)読了。
松田優作の前妻による評伝。情熱と才能の人ではあるのだが、つきあうのはかなり大変ようで。
相棒だった脚本家は優作氏の訃報を聞いた瞬間、思わずガッツポーズを取ってしまったらしい。
すぐ殴るし。そんで、「殴ったほうが痛いんだ」とか言う。こういう男の理屈ってキライだ。殴られたほうが痛いに決まってる。
在日コリアンというコンプレックスについて悩み抜く。A型なのに「自分はAB型だ(国内では少ない)」と見栄を張る。
晩年は家族より、かなり怪しい宗教家に傾倒していた。ヒーローじゃない、生身の松田優作。
『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(武居俊樹著/文春文庫)読了。
赤塚不二夫側近の編集者による評伝。とにかく破天荒(バイオレンス抜きの)。
タモリの才能をいち早く見抜き、まったくのド素人を自分のマンションに住まわせたエピソードなどは有名。
原稿を失くしてしまった編集者に対し、「朝までには描き直すから飲んでこい」とカネを渡す。
時折対比のように挿入される、手塚先生の性格の悪さが出た逸話もいい感じである。
この本が出た当時は先生まだ、存命中。
『エロ職人ヒビヤンの日々涙滴』(本橋信宏著/バジリコ)読了。
AV 監督・日比野正明の評伝。
エロの魔王・村西とおるに師事し、6年もの間無休でビンタを喰らい、平均睡眠時間は3時間。
とばっちりでハワイで逮捕。悶絶企画モノ・地上20メートル空中ファック。
エロ屋にあるまじきピュアラブ。そして一世を風靡した、黒木香との邂逅。
うーむ、数行で終わっちゃう。本について書くのが苦手なようである。だからブログも煮詰まる。
だいたい本なんて書いてあることを読みたいか否かであって、それが全てである。
映画や音楽や漫画なら「隙」があって、そこから言葉を拾えるが、文を文で自分なりに広げるってがどうもなあ。
(音やビジュアルのイメージを伝えたり、製作者の意図を示唆することもできるという点で、評論家ってのは必要だと思いますよ)
というわけでブログでは「本」のことからはどんどん離れていく気が。まあ本は売ってるから。いくらでも買って。
卯月妙子著・『人間仮免中』(イースト・プレス)、さてこの本をどう紹介しよう、と思ってるうちに一ヶ月以上経ってしまったわけで。
ちょっと凄い本。
アマゾンによると、
夫の借金と自殺、自身の病気と自殺未遂、AV女優他様々な職業…
波乱に満ちた人生を送ってきた著者が36歳にして出会い恋をした、25歳年上のボビー。
男気あふれるボビーと、ケンカしながらも楽しい生活を送っていた。
そんなある日、大事件が起こる――。
年の差、過去、統合失調症、顔面崩壊、失明……
すべてを乗り越え愛し合うふたりの日々をユーモラスに描いた、感動のコミックエッセイ!
デビュー作『実録企画モノ』で大反響を巻き起こした
“漫画界の最終兵器”卯月妙子の、10年ぶり、待望の最新刊!
ですが、AVゆうても、ウンゲロはもちろん、ミミズまで食うような作品が代表作ですから。
(監督は「片腕マシンガール」や「デッド寿司」でお馴染みの井口昇氏。この人は真性スカトロマニア)
自分はその辺は常識人なので、まず一生見ることはありますまい。
現役AV 時代の彼女に関しては自著・『実録企画モノ』に詳しい。この本は当店でも大回転した。
男の子がいるんだけどガチレズ関係の彼女がいたり、夫の死後は供養にと背中一面に刺青を彫ったり、ストリップの舞台中に喉をかっ切り自殺未遂、時折降りてくる殺人妄想、などなどなど。
「大事件」てのはつまり、ある日唐突にやらかした歩道橋からのジャンプ。
幸いにも体は無傷だったが、口から落ちたので顔面を粉砕骨折。
どうなったかというと、片目が骨ごとずれて鼻筋がなくなって顔面が平面。・・・・って、ピカソの絵?
しかし本人は「あああどうしようすんげー描きたい!!」「つーかこんな顔世の中にあんまりいない!!!」
「もうブスとかそういう範疇を超えて奇天列だ!!!」と、ちょっとワクワクしてるっていう。
激痛を伴う大手術を繰り返し、少しずつ回復に向かうのだが、その過程の顔が我ながらドン引きするくらいの醜さ。
本人曰く、「化け物」。
彼女はこの事故で片目の視神経を切ってしまったので、画力がすっかり落ちて、ハッキリ言ってさくらももこ以下。
しかし以前の画風で描かれたら、さらに読むのがツラい作品に仕上がったんじゃないかと思う。
現在は「百人並のブス」にまで顔が治ったとのこと。ひゃくにん・・・・。
家族や恋人ボビーや友人たちの暖かい介護に包まれて何とか社会復帰。
「ボビーがセックスしてくれたかげで、おいらは自分の顔に絶望せずに済みました。
おいらこの経験だけで今後何があっても生きていけると思いました」
というわけで結論が、「生きてるって最高だ!!!」
うーむ、「うわー人生詰んだ」と思ってる方は一読してみたらいかがでしょうか。かなり毒性強いけど。
あとは中高生。一足飛びにこういうの読まないと成長せんぞ。背伸びしないひとは成長しません、感性が。
『はだしのゲン』にすら物言いがつくのだから、だったら今後の課題図書は『人間仮免中』だ!
かの作品をグロ画像と同じ扱いにするのもどーかと思うが(読んだことないけど)、タブーに触れるってのは感性を磨く上で大事なことで、小学生から大人向け乱歩作品を読んでた先輩が言うのだから間違いありません(おおきくじんせいまちがったきもします)。
60年代なら白土三平やつげ義春、70年代なら楳図かずおや日野日出志、80年代なら丸尾末広(この人はコラージュ名人なので、元ネタを辿っていくと様々な発見がある)に花輪和一、90年代は山本直樹などなど、名前を並べただけでもすごいクリエーターばっかり。
「子供が読むもんじゃない」と言われたら、それを積極的に手に取るのは百パーセント正しい行為です。
「何だかわかんないけど大丈夫なんじゃない?」と思わせてくれる一冊。
顔面を破壊してもぼちぼち生きてる卯月妙子ってのがいるぞー!つうことです。
『人間仮免中』とは秀逸なタイトル。これ、『人生仮免中』じゃ全然ダメだよな、普通すぎるもんね。
なんかいろいろ言われそうだが、ジョン・レノンって人にまったく興味がないんである。
「いい魔人」聴いて感動した覚えもない。それで困った事もない。つーか、自分の人格に難がある。
1980年12月8日に射殺されて世界中が大騒ぎになったが、その前日の12月7日に、ヘロインの過剰摂取という方法によって自殺した若者がいました。
ダービー・クラッシュというロス・アンジェルスのパンクスです。
『ジャームス 狂気の秘密』を観る。
L・Aの初期パンクバンド『ジャームス』ボーカリスト、ダービー・クラッシュの人生を追った伝記映画。
他のバンドと成り立ちがちがう。まず誰ひとりまともに演奏できないのにライブをブッキングし(ダムドとニアミスしたらしい)、食べ物を捲いてみたりなどのおいたをしながらも演奏力を身につけて、そのうちにLAパンクシーンの顔になる。
曲はというと、まず歯を食いしばりながらもよだれをだだ漏れさせているような、独自の唸り声が印象に残る。
CDを聴いたときはラモーンズ以上に団子状態なんで、「なんなんだろうなあこれ」と思ったんだが、映画を観てダービーの、しょうもなくも刹那的な生き方に少々ドキドキして、すっかり好きになっちゃいましたよ。
このダービー唱法をすっかりマスターしてみせたのが主演のシェーン・ウェストで、ジャームス再結成の際にはボーカルとしてツアーに参加したらしい。たしかにそのセットだったら、ちょっと見てみたいと思う。
トレードマークは青い円(サークル・ワン)。
ダービーはファシストからヒントを得た部分があるようで、このデザインの腕章を作ったり、親衛隊は自らの腕にタバコの火を押しつけ、「円」の根性焼きを作ったという。
ジャームスは「5年計画」だという。が、実際の活動期間は2年くらいだった。
「ボーカルレッスンなんていらねえ。俺は俺の歌をうたう」ってことだったんだろう。
その「焦り」と「苛立ち」を音源として刻んだことは、パンクとしてやっぱり正しい。
歌詞も実はかなり難解というか、詩的だったりする。
ジャームスに参加したミュージシャンがフー・ファイターズだったり、ゴーゴーズだったり、アルバムのプロデュースがジョーン・ジェットだったり、意外と豪華。
ジャームスはライブの過激さと相まって人気バンドになりつつもライブが制限されてゆき、そのフラストレーションはますますダービーを薬漬けにして、メンバー間の軋轢も大きくなり、いよいよ解散となるのだが、ラストライブのシーンがとても良い。ちょっとキュンてなる。
その数日後にガールフレンドと心中を決行。結局、彼女は生き残ったらしい。
翌日に起こるレノン射殺事件。恐らく、ロスの音楽誌の紙面も全部、そっちに持っていかれた。ははは。
ラスト近くにデビッド・ボウイの「5イヤーズ」「ロックロール・スイサイド」が流れる。
これはグッとくる。やっぱし『ジギー・スターダスト』は永遠の名盤。
ランナウェイズの映画もそうだったけど、初期パンクにとってグラム時代のボウイはヒーローだったらしい。
あの異形さはロックンロールなんだな。
自分も「女は世界の奴隷か!」より「クイーン・ビッチ」である。
映画でも完璧に再現。パンク史上最悪のボーカルを聴け!↓