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すうさい堂の頭脳偵察~ふざけてません。

すうさい堂は閉店しました。17年間ありがとうございました。

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PAINT IT BLACK



すうさい堂周辺の人々に「好きな漫画家は誰か?」とアンケートを取ったとしたら、一位になるのは恐らく藤子・F・不二雄先生である。
自分なんかはチャンピオンの最盛期に『魔太郎がくる!』『ブラック商会・変奇郎』なんかが好きだったのでA派なのだが、今読むとブラックユーモアの質が無邪気な気がする。『笑ウせえるすまん』あたりもそうだが、なんでもオチは「ドーン!」で解決だもんな。で、ラストのコマは黒枠ってのが定番。
変奇郎は魔太郎のようないじめられっ子キャラじゃないが、なんだかんだでトラブルに巻き込まれ、仮面とマントで再登場。トラブルの相手に「請求書」を叩きつける。
細かく見積もってあり(「雑費」まで!)決して支払えない額ではないのだが、なんでこんなわけわからん奴に払わなきゃならんの?ってことで皆さん拒否するのだが(そりゃそうですね)、そうなると例の「ドーン!」で成敗される。恐怖の経理課。

A氏に対し、F氏の短編におけるブラック度は、本当に黒い。
ドラえもんと同じように白を基調とする絵柄だが、実に黒い。異色短編集『幸運児』などにそれは顕著。
『オヤジ・ロック』で軽く皮肉を投げつけ、有名な『ミノタウロスの皿』を始め、筒井康隆や阿刀田高にもひけを取らないような,ブラックな作品も多数収録。
短編集なのでストーリーを紹介するような無粋なことはしないが、『自分会議』『じじぬき』『間引き』などは、死をテーマに扱っている。
不条理な『ヒョンヒョロ』、ヒーローの価値観を逆転させた『わが子、スーパーマン』。
『劇画・オバQ』はセルフパロディというには、ペーソス溢れすぎ。というか、かなりのタブー破りなんじゃないかこの掌編は。
夫婦間のドロドロを描いてゾッとさせられる『コロリころげた木の根っこ』。これに近い夫婦関係ってそこら中にあるんだろうなあと思う。収録作品中、最も過激なブラック度。
最後を飾るのは『やすらぎの宿』。これはどういう話なんだろうなあと読み進めていくと、ラスト3ページにおける、ブラックすぎるオチ!
もちろん絵は穏やかに白いが、ページは真っ黒に染まっている。

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俺の右手は殺人専用



手塚治虫『シュマリ』読了。といっても入荷するたびに読んでるので、手塚作品としてもかなり好きな逸品。
北海道を舞台にアイヌ名「シュマリ」を名乗る和人の物語。普段彼は右手を包帯で巻いて使えないようにしている。その手を使うのは、人を殺すときだから。
男と逃げた妻を追っているが、その男と間違えて別人を斬ってしまった為手配されているおたずね者。
ふとしたことで砂金を手にし、それを元手に土地を買おうとするが、そこで出会ったのがエゾの土地持ち、太財一族。後に外道鉱と呼ばれる太財炭鉱を経営する。
キーマンは次男の太財弥七。
最初はカラカラの土地をシュマリに売りつけるが、そこをなんとか生き返らそうとするシュマリの豪放さに惹かれて、一緒に組もうとする。
炭鉱が傾いて来たので妹のお峰をシュマリの元にあずけ、金の工面を頼んだりしたが、そのうちお峰がシュマリの男っぷりに惚れちゃう。
なんだかんだあってシュマリが太財炭鉱に堕ち、そこで新撰組の土方歳三と出会ったり。盛りだくさん。
弥七は基本的には冷酷な経営者なのだが、シュマリの息子の面倒を見たり、最終的にはたきつけられた炭鉱の反乱分子に対し、シュマリと共闘する。キカイダーとハカイダーみたいである。

手塚氏は悪役を魅力的に描くのがうまいと思う。
結局自分にとっての手塚作品というのはそこであって、そこにしか興味がないです。
ドクター・キリコとか。百鬼丸や写楽呆介も純粋なヒーローとは言い難い。
様々な作品で顔を出す間久部緑郎(まくべろくろう/ロック・ホーム)
獣に変身する一族と組んで社会を混乱させる『バンパイヤ』が一番いい仕事をしている。
『ぼくは悪魔の申し子だい』『ネクタイしめて メガネかけて  ハウアーユーぐらいゆうよ それが現代の悪魔なのさ』『足音高く 破滅の山へ行進だ!!』(劇中オリジナルソング)
乱歩的な色合いの強い半透明の怪人「アラバスター」にも悲しみが滲んでる。
バイプレイヤーとして有名な「アセチレン・ランプ」とか。70年代東映の作品でもこういう人がいますね。
無意識の悪魔・『人間昆虫記』の十村十枝子。ヒッピー娘の「ばるぼら」や女吸血鬼の「I・L」なんてのも。
しかし一番空恐ろしいのは「奇子(あやこ)」か。
あらゆる悪を詰め込んだ『MW』に登場する美貌の犯罪者・結城美知夫。残念な映画化をされたもよう。
モグリのタクシードライバー「ミッドナイト」とか、フェイク俳優であり大泥棒の「七色いんこ」とか、アンチヒーローが多彩だ。まだまだいそうな気がする。
かように漫画の神様は、悪もたくさん作りたもうた。

アイワナビーユアドッグ



松田洋子『相羽奈美の犬』(太田出版)。犬まんがの傑作。
と書くと、なんとも語弊が。主人公は確かに犬ではあるのだけど。
その犬は元々、ニートの青年で、憧れの女子高生「相羽奈美(あいわなみ)」のストーカーだったのでした。
で、ストーカーしているうちに彼女についている「わるいストーカー」を見つけ、「ストーカーの風上に置けん!」と追跡した途端、交通事故にあって死にかけのところを突如現れた犬神の力により、一匹の犬として再生させられる。
人間の時にストーカーだった彼は、晴れて犬として憧れの女性のペットに。
オンオン鳴くから名前は「オン」。犬神の名は「ネン」となる。

オンには特殊能力があり、狙った人間に噛みつくと、そいつを犬に変えることができる。
人間の意識は抹消された、しかもそいつの身の丈に合った、単なる犬に。
この辺が松田洋子ブラック劇場の独断場であり、うわーこりゃろくなもんじゃねぇなという描写が絶妙。
相羽さんは薄幸の少女なので、ろくでもない人間ばっかり集まってくる。父親との関係もこじれまくっている。
彼女を監禁しようとするおばあちゃん子の教育実習生、殺人を犯しながら現実から逃げ続けるホームレス、高校時代の栄華が忘れない現在大学では「ぼっち」のイケメン部活O B、子供にタバコの火を押し付け傷を作り「おたくの犬に噛まれたから金出せ」と言いがかりをつける父母、どうにも底辺な人生のメイド、など。
オンは基本的には奈美を危機から救うために、彼らを次々と犬にしていく。
が、人間としては生き辛すぎる彼らは犬にされてようやく、救済されている部分もある(それにしてもかなりブラックなのだが)。
ラストはハッピーエンfドのようで不条理ブラックのような、ほろ苦い結末が待っている。

この人は今までは『薫の秘話』『赤い文化住宅の初子』『まほおつかいミミッチ』など、ストーリーよりセリフのキレが最大の武器だったと思うのだけど、ここまで完璧な物語を作られるともう敵なし。
コンプレックスやダークサイドを笑いに包む達人。90パーセントがダークサイドとコンプレックスで出来ている人間からすれば、非常にほっこりさせられる作風である。
そしてやっぱり絵がうまい。犬を「犬として」表情豊かに描けるってのは結構すごい。
オンとネンの「かけあい漫才」も面白いです。

活字レビューやめた宣言



『越境者 松田優作』(松田美智子著/新潮文庫)読了。
松田優作の前妻による評伝。情熱と才能の人ではあるのだが、つきあうのはかなり大変ようで。
相棒だった脚本家は優作氏の訃報を聞いた瞬間、思わずガッツポーズを取ってしまったらしい。
すぐ殴るし。そんで、「殴ったほうが痛いんだ」とか言う。こういう男の理屈ってキライだ。殴られたほうが痛いに決まってる。
在日コリアンというコンプレックスについて悩み抜く。A型なのに「自分はAB型だ(国内では少ない)」と見栄を張る。
晩年は家族より、かなり怪しい宗教家に傾倒していた。ヒーローじゃない、生身の松田優作。

『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(武居俊樹著/文春文庫)読了。
赤塚不二夫側近の編集者による評伝。とにかく破天荒(バイオレンス抜きの)。
タモリの才能をいち早く見抜き、まったくのド素人を自分のマンションに住まわせたエピソードなどは有名。
原稿を失くしてしまった編集者に対し、「朝までには描き直すから飲んでこい」とカネを渡す。
時折対比のように挿入される、手塚先生の性格の悪さが出た逸話もいい感じである。
この本が出た当時は先生まだ、存命中。

『エロ職人ヒビヤンの日々涙滴』(本橋信宏著/バジリコ)読了。
AV 監督・日比野正明の評伝。
エロの魔王・村西とおるに師事し、6年もの間無休でビンタを喰らい、平均睡眠時間は3時間。
とばっちりでハワイで逮捕。悶絶企画モノ・地上20メートル空中ファック。
エロ屋にあるまじきピュアラブ。そして一世を風靡した、黒木香との邂逅。

うーむ、数行で終わっちゃう。本について書くのが苦手なようである。だからブログも煮詰まる。
だいたい本なんて書いてあることを読みたいか否かであって、それが全てである。
映画や音楽や漫画なら「隙」があって、そこから言葉を拾えるが、文を文で自分なりに広げるってがどうもなあ。
(音やビジュアルのイメージを伝えたり、製作者の意図を示唆することもできるという点で、評論家ってのは必要だと思いますよ)
というわけでブログでは「本」のことからはどんどん離れていく気が。まあ本は売ってるから。いくらでも買って。

「人間仮免中」とはよく言った



卯月妙子著・『人間仮免中』(イースト・プレス)、さてこの本をどう紹介しよう、と思ってるうちに一ヶ月以上経ってしまったわけで。
ちょっと凄い本。
アマゾンによると、

夫の借金と自殺、自身の病気と自殺未遂、AV女優他様々な職業…
波乱に満ちた人生を送ってきた著者が36歳にして出会い恋をした、25歳年上のボビー。

男気あふれるボビーと、ケンカしながらも楽しい生活を送っていた。
そんなある日、大事件が起こる――。
年の差、過去、統合失調症、顔面崩壊、失明……
すべてを乗り越え愛し合うふたりの日々をユーモラスに描いた、感動のコミックエッセイ!

デビュー作『実録企画モノ』で大反響を巻き起こした
“漫画界の最終兵器”卯月妙子の、10年ぶり、待望の最新刊!

ですが、AVゆうても、ウンゲロはもちろん、ミミズまで食うような作品が代表作ですから。
(監督は「片腕マシンガール」や「デッド寿司」でお馴染みの井口昇氏。この人は真性スカトロマニア)
自分はその辺は常識人なので、まず一生見ることはありますまい。
現役AV 時代の彼女に関しては自著・『実録企画モノ』に詳しい。この本は当店でも大回転した。
男の子がいるんだけどガチレズ関係の彼女がいたり、夫の死後は供養にと背中一面に刺青を彫ったり、ストリップの舞台中に喉をかっ切り自殺未遂、時折降りてくる殺人妄想、などなどなど。
「大事件」てのはつまり、ある日唐突にやらかした歩道橋からのジャンプ。
幸いにも体は無傷だったが、口から落ちたので顔面を粉砕骨折。
どうなったかというと、片目が骨ごとずれて鼻筋がなくなって顔面が平面。・・・・って、ピカソの絵?
しかし本人は「あああどうしようすんげー描きたい!!」「つーかこんな顔世の中にあんまりいない!!!」
「もうブスとかそういう範疇を超えて奇天列だ!!!」と、ちょっとワクワクしてるっていう。
激痛を伴う大手術を繰り返し、少しずつ回復に向かうのだが、その過程の顔が我ながらドン引きするくらいの醜さ。
本人曰く、「化け物」。
彼女はこの事故で片目の視神経を切ってしまったので、画力がすっかり落ちて、ハッキリ言ってさくらももこ以下。
しかし以前の画風で描かれたら、さらに読むのがツラい作品に仕上がったんじゃないかと思う。
現在は「百人並のブス」にまで顔が治ったとのこと。ひゃくにん・・・・。

家族や恋人ボビーや友人たちの暖かい介護に包まれて何とか社会復帰。

「ボビーがセックスしてくれたかげで、おいらは自分の顔に絶望せずに済みました。
おいらこの経験だけで今後何があっても生きていけると思いました」

というわけで結論が、「生きてるって最高だ!!!」

うーむ、「うわー人生詰んだ」と思ってる方は一読してみたらいかがでしょうか。かなり毒性強いけど。
あとは中高生。一足飛びにこういうの読まないと成長せんぞ。背伸びしないひとは成長しません、感性が。
『はだしのゲン』にすら物言いがつくのだから、だったら今後の課題図書は『人間仮免中』だ!
かの作品をグロ画像と同じ扱いにするのもどーかと思うが(読んだことないけど)、タブーに触れるってのは感性を磨く上で大事なことで、小学生から大人向け乱歩作品を読んでた先輩が言うのだから間違いありません(おおきくじんせいまちがったきもします)。
60年代なら白土三平やつげ義春、70年代なら楳図かずおや日野日出志、80年代なら丸尾末広(この人はコラージュ名人なので、元ネタを辿っていくと様々な発見がある)に花輪和一、90年代は山本直樹などなど、名前を並べただけでもすごいクリエーターばっかり。
「子供が読むもんじゃない」と言われたら、それを積極的に手に取るのは百パーセント正しい行為です。

「何だかわかんないけど大丈夫なんじゃない?」と思わせてくれる一冊。
顔面を破壊してもぼちぼち生きてる卯月妙子ってのがいるぞー!つうことです。
『人間仮免中』とは秀逸なタイトル。これ、『人生仮免中』じゃ全然ダメだよな、普通すぎるもんね。

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古本すうさい堂
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